一見、"アート"という言葉を耳にすると、美術館やオークションで取引されるようないわゆる”ハイアート”をイメージしがちである。しかし、本来アートとは子供のときに誰でもクレヨンで遊ぶように、大人が勝手に作りあげた敷居を越えて、どんな人間にも喜びや感動をもたらし、日常を豊かにしてくれるものである。そのアートが本来もつ役割を、介護の現場に持ち込むことはしごく自然な動きであり、この本では国内外の豊富な実例をあげて紹介している。

興味深いところは、この本で紹介されているアートが単に「介護」という現場に限定されておらず、アートと人間、そして人間社会のあいだに介在する豊かな精神的つながりについて、読者に深く問いかける。特に今道友信先生（東大名誉教授、哲学科）の言葉は、目にみえるものを追いかける現代社会に生きる私たちに、目にみえないもの（哲学・美学）がもつ価値について、再考する機会を与えてくれると思います。

『進化するアートマネージメント』の著者の第２弾。期待して読んだ。相変わらず刺激的な文体、脳味噌に新たな視点を持った｢眼」が形成されるようだった。『進化するアートコミュニケーション』を読み、もしかすると「この社会」は、私たちが生きて、見て、感じている社会とは違う可能性があるのかも知れないと感じた。
だから、この著者の本は見逃せない。（あきら）