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ブッデンブローク家の人びと 中 (岩波文庫 赤 433-2)

価格: ¥798
カテゴリ: 文庫
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市民性と芸術性のはざまで ★★★★★
 父ヨハンの死によってブッデンブローク家の実権は長男トーマスにゆだねられることになった。出戻りの妹トーニはペルマネーダーと二度目の政略結婚を果たすが、再婚生活は同氏の些細な捨て台詞が「最後の一滴」となってあえなく崩壊する。一方弟のクリスチアンは体が弱いのを口実に仕事をせず、芝居に夢中になっている遊び人である。
 トーマスもまた政略結婚であり、妻とは別に愛人がいる。愛し合ってはいない夫婦のあいだに生まれたハンノは、およそ商人には向いていない内気な性格であるが、芸術的な才能を持っておりピアノの名手である。将来に不安を抱えたまま舵取りを任されたトーマスだが、ブッデンブローク商会の経営は傾き、財産をめぐる母エリーザベトとの対立もあって、トーマスは次第に自信を失ってゆくと同時に疲労を蓄積してゆく。
 この世の春を謳歌していた商業一家が、芸術的な遺伝子の混入によって頽廃してゆくさまは、トーマス・マン自身の家系を作品化したと言ってもいいであろう。マンもまたリューベックの商業一家に生まれ、兄ハインリヒと共に文学の道を歩むことによって商家としての歴史をつぶすことになる。マンの子どもたちがいずれも芸術の道を選びながら相次いで自殺してゆく未来をも、この若き日の作品において予言しているかのようで興味深い。
 暗雲たちこめてゆくストーリーとは裏腹に、マンの筆致はあくまでも肯定的でありユーモアさえ感じさせる。二十代でのこの達観した語り口、余裕はやはり大器のなせる業であろう。後年のノーベル文学賞受賞は主に本作によるものであると言われているのもうなずける。