とりわけ男女両色のバランスの変化が見事に描かれていて面白い本と申せましょう。つまり、徳川時代の前半までは男同士の「恋」のみが我が国における唯一の恋愛であったのに、衆道の衰退によって武士の世界から「恋の拠り所」が奪われてしまった事実など、読んでいてたいそう参考になる作品です。文章も読みやすく優れて流麗な筆致で記されています。
近年、タイモン・スクリーチの『春画』や葉文館出版の『江戸の色道』など日本の性風俗を客観的に述べた書物が次々に上梓されているのは極めて好ましい傾向かと存じます。貧しく偏狭な性愛観しか持たなかったヨーロッパ世界とは異なり、男色・女色のいずれにも偏らずに生きた我々の祖先たちの豊かな性生活の奥行きの深さを教えられたような気が致します。是非どなたにも一読をお奨めします。