こういう本が欲しかった!最高の信長概説書
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信長の戦歴をたどった解説本が欲しいけれど、学研などのムック本ではものたりない…という方に最適の本である。博物館めぐりやゲームの副読本にも適している。
95年刊の『織田信長家臣人名辞典』を読んだとき、著者の谷口氏は只者ではない…と思ったものだが、今回の本書でも期待を裏切らず、培われた博識をベースに、一般読者に通史をわかりやすく説き起こしていて、学術書にもかかわらずすらすらと読んでいける。
近年、信長研究は著しく進展している。桶狭間の戦いは奇襲ではなかった。長篠の戦いの鉄砲三段撃ちはなかった…等々。しかし、それらの成果を取り入れた通史・概説書が今までなかった。本書はその穴を埋めているのはもちろんだが、説が分かれているところでは並列して紹介し、その他のところも、『信長公記』を初め、良質史料のみに依拠しているのは当然としても、『○○家文書』に含まれない新発見史料に基づく研究成果をもさりげなく取り入れている。それでいて、専門書のように詳細な注がうるさいということもない。
私は上杉氏との魚津城攻防戦を調べていたのだが、その簡潔かつ踏み込んだ記述にうなってしまった。
それにしても、『日中十五年戦争史』でも思ったことだが、『戦争の日本史』シリーズに執筆する著者を選ぶときに、いわゆる研究職でない谷口氏に白羽の矢が立つのである。大学教員は、もっとわかりやすい概説書・教養書を書くということに力を注いでもいいのではないか?