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中世的世界の形成 (岩波文庫)

価格: ¥1,197
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
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歴史の定点観測 ★★★★★
歴史上のヒーローとか政治的軍事的な動きを通して歴史を見ようとする眼にとっては、ここで説かれている歴史は実に地味です。でも、だからこそおもしろい。黒田庄とその周辺にカメラを固定して観測された歴史。歴史を見る眼は多様であらねばならないのです。
古代的なものとは何か。中世的なものとは何か。歴史をどのように見るか。極小部分に当てられたスポットライトに浮かび上がるものを通して、我々は広大な世界的課題に向き合わされます。素粒子の世界に分け入ることが宇宙の謎に迫ることであるように。
「古代」と「中世」の一筋縄でいかない関係 ★★★★☆
 律令制に基づく古代日本は貴族達の階級的堕落によって衰亡し、変わって草深い地方の農村から、在地領主層などの新しい階級の利益を担う中世的秩序が登場する、学校の日本史ではそんなふうに教わったように記憶しています。しかしながら、「古代」から「中世」への移行は、やはりそんなに単純明快ではないようです。
 本書は、南伊賀の黒田庄なる庄園における平安末から鎌倉末に至る紆余曲折に着目し、本所たる東大寺と在地領主層との関係の変遷を解説することにより、古代的秩序の衰退と中世的世界の形成を動態的に説き明かそうというものです。その過程で、庄園内部における階級分化の状況、その結果としての在地領主層の成立と成熟、そして国衙や幕府といった外的権力との交渉状況などが、実証的にキメ細かく分析されています。
 「寺奴」や「作人」に対する身分的支配という古代法の原則を振りかざし、在地における現実の所有・生産関係を抑圧しようとする東大寺の論理。一所懸命的に自らの権益を確保・拡充すべく、実際の土地支配の事実と現地の慣習法的状況を主張しつつも、独り立ちへの不安から階級的団結をためらう在地領主たち。両者のせめぎ合いは、攻守時としてところを変えつつも、延々数百年の長きに亘ります。著者によれば、在地における中世的世界は、こうした緊張と葛藤を背景として、正に古代の中から成長していくのです。
 昭和19年に執筆されたという古い本です。マルクス主義的な色彩と同時代的状況への諷刺には、時代的な背景を強く感じさせるものがありますが、そのあたりを割り引いたとしても、日本中世史ファンにとっては読まざるべからざる古典的な名著と言えましょうか。
中世版「ナニワ金融道」、もとい、不動産業。 ★★★★★
この本の学説史的な意義や影響の大きさに関しては、
門外漢なので伝えられません。教科書的にいえば・・・
律令制は勿論、荘園制までも「古代」的基盤と位置付け、
(その象徴としての興福寺勢力)、封建制(地域内土地基盤に
基づく結合を止揚した主従という個の連携)を基礎とした武士団、
そのネットワークの形成こそが、来るべき中世的世界への移行を

可能とした。それがアジアにありながらアジア的停滞を免れ、中世
世界への移行を可能した要因である!とまあこうなるのかな。
そういう学術史的意義はさておき、中世に於ける欲望が土地を巡って
渦巻いていた様がイキイキと伝わってくるのが本書の一番の魅力。

覚めた口調でえげつないパワープレイを描ききる、「ナニワ金融道中世版」といったら言い過ぎかナ?歯ごたえアリ。でも必読。

学術的手続きに込められた暗喩 ★★★★☆
この書は何よりも学術書である。簡易平明なレビューとして社会に問うたものではなく、歴史学専門家の査読を受け、「領主制」論として数十年に渡り学問的視点を形成し学会に影響を与えた名著である。 しかし単にそれだけに留まらない。むしろ、そうした学問の器の中の東大寺領黒田荘を取り巻く環境に、第二次大戦前後の世界に対する日本を示す暗喩を幾重にも周到に執念深さすら持って叙述した事が、この書に一種魔物的な磁力を与えている。 勿論歴史的事実認識としては研究の進展に伴い妥当しなくなる物が多い。また、当時の世界と日本の関係についての見解もいかにも当時の左翼知識人の牢固さに留まっている。しかし、そうした時代制約、知的制約とは別に、この書は確かに不可思議な生命力に脈打たれている。学問的良著とは過酷な環境からこそ産まれるのかもしれない。