画期的な中国民族政治研究
★★★★★
これまで日本の中国研究では、ほとんど無視されてきたに等しい、
民族政策および、辺境地域における政治研究をまとめた書。
これまで、著者はこうしたテーマで断片的に論文を発表してきたが、
この書が集大成と言えるだろう。
前半では、中華人民共和国における民族政策について。民族の恣意的な分類や
有名無実の民族自治区等を通じて、その問題を浮き彫りにしていく。
後半は、1940〜50年代の外モンゴル、新疆、チベットにおける具体的事例の
分析を通じて、国家統合のプロセスを論じ、最後には今後の国家のありかた
までを論じていく。
本書は、あくまで中国側の資料に依拠しており、海外亡命者の証言等を重視していない
ため、中国よりになっている感はいなめない。
とはいえ、筆者が終盤部分で述べている、「民族問題が今後、中国の国際政治における
独立変数となりうる」という主張は、2008年のチベット問題で図らずも的中した。
中国の民族問題を論じる際には、必読の書である。