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地の果ての獄〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈5〉 (ちくま文庫)

価格: ¥1,188
カテゴリ: 文庫
ブランド: 筑摩書房
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愛の看守有馬四郎助(ありま しろのすけ) ★★★★★
今回の主人公は有馬四郎助(ありま しろのすけ)北海道樺戸集治監での看守募集に応募し、看守長兼書記となる。監獄改良と行刑制度の確立に務めた。
樺戸集治監が設置された経緯は、明治維新の動乱で多数の国事犯・重罪人がでたため、明治新政府は、収容する施設を早急に整備する必要に迫られたからである。
そこで、東京・宮城に続き全国で3番目、北海道で最初の集治監「樺戸集治監」が、収容者数約1,500人規模の「農事監獄」として始まったのである。

以上が歴史的事実で、ここまで揃えば、あとは風太郎翁に任せて物語を楽しめばよいのである。
波乱万丈監獄悲喜劇 ★★★★★
山田風太郎といえば娯楽時代小説の大家。
近年は「甲賀忍法帖」が「バジリスク」のタイトルで漫画化・アニメ化したことでも記憶に新しい。
四郎助の赴任直後から監獄では度々不審な事件がおきる。
囚人が有り得ない不可能状況から脱走を図る。横暴な看守が変死を遂げる。
呑んだくれのアイヌ医者、人間の良心を信じ続ける神父。
それら多彩な人物に囲まれ囚人と触れ合ううちに、四郎助の心境にも徐徐に変化が芽生えていく。
なんといっても牢屋小僧がめちゃくちゃかっこいい。ほれます。野卑で狡猾、過酷な苦役と折檻にもめげず不敵な笑みを浮かべ続ける男。
そこはかとなく不気味な存在感で他を圧倒し、極悪人ぞろいの獄でも一目置かれる隻眼の囚人。
個性的な登場人物たちの中でも彼のキャラは異彩を放ってます。
収録作の中でいちばん好きなのは「邏卒報告書」。
元巡査の囚人・畑寺。根っから善良で真面目な畑寺が地の果ての獄で再会したのは、自分を騙し裏切り続けた親友・高戸。
同じ枷に繋がれた二人は元親友同士でありながら姑息な高戸は何度も畑寺をそそのかし、その友情に付け込んで美味い汁を啜っていた。
高戸の裏切りがもとで巡査の職と最愛の妻子までも失い、地の果ての獄に送られた畑寺を待っていたのは元部下で現看守の堂目の凄まじい虐待。
しかし根っからお人よしな畑寺はそこでも元親友を庇い続け……

全部説明しちゃうとアレなんで、これはとにかく!読んで下さい。
騙され裏切られすべてを失った冴えない中年男、畑寺。
友人を破滅させておきながら反省の色はさっぱりなく、今また畑寺を踏み台に脱獄計画を練るこりない高戸。
最後の最後で畑寺が上げた台詞が、もうね……胸が熱くなる。涙がこみあげてくる。 
あの台詞を叫ぶまで畑寺が経てきた人生が走馬灯のように過ぎって、活字がぼんやり滲む。

傑作です。おすすめです。