海軍(発注者側)と民間(設計者)との間で繰り広げられる仕様と性能との息詰まるような戦いのドラマが本書には綿密に描かれている。技術者の端くれである私などにとっても、身につまされる思いでページをめくることとなった。これから技術者を目指そうとする人には必見の一冊である。
中国重慶での鮮烈なデビューから太平洋戦争終結までの長きに渡って文字通り日本を代表する戦闘機として第一線で活躍したのだから、零戦の優秀さには驚きの一言である。ただ、相手との工業力・資源力の違いはいかんともし難く、「零戦」と「軍事国日本」の生い立ちが妙にオーバーラップし、零戦の運命は軍事国日本の運命を正確に投影しているようで、読後妙に虚脱感に襲われてしまった。
余談ではあるが、今回私はこの本を読むにあたって、事前に「1/48 零式艦上戦闘機52型」のプラモデルを作っていた。それもスケルトンであり、中の骨組みから操縦席・エンジン部分まで精密に再現されているものである。おかげで、文章中の専門的な部品の配置なども頭に直感的に浮かびたいへん理解し易く読み進むことができた。
また、本書を読んだ後引き続いて「空母零戦隊 岩井勉著」も読むことを強くお勧めしたい。