人と人と人
★★★★★
いろいろな人と人とのあいだに物語が紡がれていきます。
信次郎は相変わらずです。遠野屋と違って人から好かれる性格ではありませんが、いい仕事はします。しかもはやいです。
このまま変わらないのか、変わるのか。信次郎のこれからが気になります。
楽しみなシリーズ
★★★☆☆
おしのが、娘おりんと清之介の出会いをしみじみと思い出していた頃、縁があり遠野屋に
拾われ、清之介が我が子と思い育てているおこまが何ものかにさらわれた。清之介は
木暮信次郎に助けを求める。おこまをさらった犯人の狙いはいったい何か?おこまは無事
遠野屋に戻ってこられるのか?表題作「木練柿」を含む4編を収録。「弥勒の月」「夜叉桜」に
続く、シリーズ第3作。
シリーズ2作目の「夜叉桜」で清之介に託された幼い命の行く末が案じられたが、おしのや
清之介、女中頭のおみつらの愛情を受けすくすく育っていたのに安心した。おしのも少しずつ
現実を受け入れ、元気を取り戻しているようでほっとした。ただ、今回の作品では、清之介の
過去に関係する人物の登場や、それに伴って起こる事件などがいっさいなかった。このまま
平穏に生活できるとはどうしても思えない。「闇の力」ははたしてこれから清之介にどう接触
してくるのか?とても気になるところだ。今回の作品も心に切なくしみてくる話が多かった。
描写に少々くどさを感じたが、おりんと清之介のことは特に胸にぐっとくるものがあった。
これからが楽しみなシリーズだ。
ただ一つのものが語られる
★★★★☆
おりんに、「お覚悟を」と迫られた清弥は、ひとかどの商人、遠野屋清之介となった。
清之介の所作は、見惚れるように滑らかである。まわりには、ゆきとどいた言葉をかけ、心遣いをみせる。店の者にも全面的に信頼されている。だがそのこと自体が、好意的に見ているものにさえ、時として懸念を抱かせる。
≪計算ずくであるわけがない。この男の本質なのだ。この男はこうやって他者の心を掴み、揺すり、操る。
操る?
伊佐治は息を詰め、頭を振った。≫
武士と商人の間に、「覚悟」があった。だが清之介の「覚悟」がどうであったとしても、同心小暮信次郎の眼に視えるものがある。
≪親分は、あやつが商人などではなく正真の人斬りだと心底では思っていた。そういうこったろ。≫
義母は、その不安のゆえに、娘おりんを追い詰めた。信次郎は清之介を、「狩る相手」と考えている。伊佐治には、信次郎の言葉を否定できない時がある。清之介は、まわりのものを力づける、そして怖れを抱かせる。まわりのものは否応なく、清之助の渦に巻き込まれる。しかも、清之助自身が、己を不吉なものではないかという思いをぬぐい切れていないのだ。そこに、おこまという養女が現れる、まさにかけがえのない存在として。
総ての話が、信と不信が交錯する場として、進んでいく。そしてそこに、怖ろしいもの、が現れては消える。
物語に厚みが・・・
★★★★☆
今回は短編集で、信次郎・遠野屋・伊佐治の周りの人間にスポットをあてた物語が集まっている。
丁寧に描かれたことで、物語の背景に厚みを出してきたように思いました。
既にいない人物の鮮やかな存在感、表面に出てこない家族の息遣いが3人の人物像を厚くする。
良質な短編集。ただ、井月屋の話はちょっとありがちな展開だったように思ったが・・・。