本家ジェネシスが「インビジブル タッチ」で大ブレイクする前後に彼のネームバリューは一躍ワールドワイドに飛び火していくことになるのだが、この作品はその時期の少し前、まだ洋楽ファンの間だけで有名だった頃のものである。前作「夜の囁き」や次作「ノージャケットリクワイアード」に比べると地味な印象の作品だが、この作品では曲そのもの以上にプレイヤーとしての彼の手腕を楽しめる作品になっている。
本家ジェネシスがバンド名義のタイトルを発表する前にはマイクもトニーもどこか実験的かつお遊び的な要素の濃い作品を発表していたが、それと比較すれば、フィルも当時すでに相当な名声を得ていたとはいえ、二人の動きにあわせるように、実験的な作品を創る意志があったのかもしれない。(とはいえ二人に先駆けて「アバカブ」以来最初にソロを発表したのはフィルだったのだが)
その、どこかファジーでフレキシブルな作品創りが功を奏したのか、バンド名義のジェネシス新作は今までに無い高い完成度を誇って私たちの前に姿を現した。傑作アルバム「ジェネシス」の誕生である。
そしてこの作品を契機として、ジェネシス本体も、ソロ活動も、奇跡的と言えるほどのめざましい活躍を見せていく。そんな重要なひとつの布石として、フィルのこのアルバムが生まれたのだと私はそう思っている。