ご先祖様も同じ人間
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久しぶりにすごい本に出会うことができた。何がすごいって、中学や高校で習った歴史とは全く違う、生きた人間の織り成すさまざまなドラマが、著者の軽妙な筆致で描かれている。
また、非常にわかりやすく書かれているので、全国の中学、高校の図書館に置けば、きっと歴史の嫌いの生徒は激減することだろう。
それと特にこの本の後半は、かなり専門的なことにまで言及してあり、筆者独自の学説を展開しているので、歴史学専攻の大学生とか、町の歴史マニアにも読み応えのある本だと思う。
“視点を変えて考える”ことの面白さを教えてくれる書
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古代史の本は、正直あまり好きではありませんでした。「こんな社会制度になっていた」ということが、決まりきったことのように書かれていて、それでいて、政治抗争など人間関係の話が、大した根拠もないのに、まるで見てきたかのように勝手無責任に書かれているので。
でも、この本は全然ちがいます。怪異な話だけど、でも人として「リアルだな」と思わせる話が集められた『霊異記』という書を材料にして、古代の社会を生き生きと照らしだしています。千年以上も前の、わからないことがたくさんある時代のことを、現代人としてイマジネーションをどのように働かせて考えていったらいいのか。俗にいう古代史ロマンの押しつけではなく、読み手がそれぞれに古代の人間の姿を“発見”する面白さを教えてくれる、本当によい本だと思いました。
「あたりまえ」の古代史をくつがえす吉田ワールド
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古代の仏教説話集『日本霊異記』は現代人にとって不思議な読み物である。どこをどうとってみてもフィクションとしか思えないし、いったいどこが仏教的教訓になっているのかさえ、よくわからないこともしばしばである。
ところがこの本は『日本霊異記』を徹底的に歴史書として読むというテーマに挑む。まるで俗人とかわらぬくらしをいとなむ僧侶、浜辺に住むひとびとの生活、女性や商人など、お上が作る歴史書類にはおよそ登場することのないひとびとの歴史的実像をこの『日本霊異記』から描き出す。彼らはしたたかであり、なによりも生命力にあふれている。そしてときおり、「民衆」という枠組を飛び出していきそうでさえある。
現地を歩き、考古学の成果を駆使し、これまで架空だとばかり思われていたことが実在していたことをあかしつつ、これほどまでに専門的内容を最後まで一気に読ませる語り口は見事。その筆力にはおもわず舌を巻く。
そしてついには私たちが教科書で習ったはずの「あたりまえ」の古代史のすがたをくつがえしてみせる。この本がわたしたちに投げかける問いはじつにスリリングである。はたして律令国家なるものは本当に成立し、そして崩壊していったのだろうか?その答えをみつけるのは、著者ではなく、どこかの偉い先生でもなく、この本に出会った私たち読者にほかならない。
民衆の古代史
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本書で「日本霊異記」を読み解くにあたり、非常に読み易い平易(かつ論拠のある)な文章で書かれているため初めから終わりまで面白く読み進めることが出来る。専門でなくとも分かりやすく読めるというのは、このような種類の本において大変優れていると言えると思う。
初心者でも面白く読める
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網野善彦さんの著作など、各種の歴史ものを素人ながらに読んでいて、一番苦労するのは引用の漢文の難しさでしょう。やっと慣れてきたと思っても、しばらく歴史ものを読まないと勘を失ってしまい、ハードルが高くなってしまいます。
この本は、説話集「日本霊異記」をテキストに、読み下しや現代語訳を付けています。引用の史料が面白い物語であるのも助かります。実話として語られる、仏罰で半身牛になって苦しむ女性、といった物語は、伝説、風説として、どのように生まれ信じられていったのか、興味は尽きません。
こうしたテキストの読み取りを重ねながら、古代史に関する教科書的イメージを乗り越えていくスリル。初心者でも、その読み解きのプロセスが分かりやすく面白く、お薦めできます。