さばさばとした記憶の中の東京
★★★★★
本書は、1970年代後半に作家野口冨士男が自らの記憶を辿り、
文学との関わりから東京の移り変わりを記したものである。
と言っても、感傷に満ちたものではなく、変わりゆく東京を
楽しんでいる風でさえある。
取り上げられる街(地域)は、飯田橋から三田まで、銀座、
小石川・本郷・上野、浅草・吉原・玉の井、芝浦・麻布・渋谷、
神楽坂から早稲田まで。
戦前既に吉原は時代遅れになりかけており、それが玉の井を
栄えさせたといったことや、古川橋辺りは昔出水が多く、
小さい町工場が軒を連ねていたといったこと、戦前の神楽坂の
繁栄といったことが書かれており、興味は尽きない。
それからまた30年余りを経た現在、ここに描かれた街が
まだその面影を残していることにむしろ感慨を覚える。
文学を愛する者にとってのガイドとしてばかりでなく、
文学への入口としても楽しめた。
「東京」を愛でる本
★★★★★
「東京」という街を、日頃暮らしていながら、本当は良く知らないのかも知れません。この本を読んでいるとつくづくそう思います。
様々な文学作品と、著者の体験したエピソードを絡めながら、震災以前、敗戦以前、そして現代と、三つの時代をノスタルジーたっぷりに描いて行きます。でも、ノスタルジーだけではありません。それぞれの時代の「東京」を著者は、愛でているようです。その美しい文章が、「東京」の美しさ、良さを象徴しているようです。
この本を読んでゆくと、様々な文学作品が登場してきますが、実際読んでいる作品は半分にも満たないかも知れません。それだけに、読んでいる本も含めて、それらを読みたくなってきます。
もちろん、ここで紹介されている場所にも行ってみたくなります。行っている場所であっても、もう一度あちらこちらを確かめて、その良さを体感したくなります。
素晴らしい「東京」の紹介本です。