「大きな家に仮住まいする」と言えば、「スティル・ライフ」。そう思った池澤ファンならば、作家が今までに紡いできた幾つかの作品のスタイルをこの物語に見出すことだろう(「スティル・ライフ」以外にも、私は5つの長・短編を思い出した。もちろん私の勝手な思い込みだし、人によって数は違うだろう。みなさんの読書の楽しみを削がないためにも、タイトルは言わないでおく)。
もちろんそんな予備知識はなくても、誰もがゆったりとした気分に浸れる、そんな物語だと思う。ここに出てくる人たちは、バラバラなようでいて結びついている。だからと言って、べトッと結びついているわけではない。また、気ままなようでいて、真面目に生きている。だからと言って、クソ真面目というわけではない。そういう人たちが、人生のある一時期に一所に集い、それなりの秩序、一つの世界が形成され、そしてそれはいつしか想い出となっていく。それが「カイマナヒラの家」なのである。