安保闘争の時代に笑いを
★★★★★
安保闘争で中学生までもが学生運動をしていた時代、
何か面白く笑ってしまえる作品を井上さんは書こうとしたと思う。
中に含まれる、駄洒落、ジョーク、皮肉の中に
「優しさ」「人をいたわる心」がかいま見える作品である。
古い本であるが、新装版も出版されているので、
現状は苦しい、でも、あの時代も苦しかった、
そして、何より「笑う」ことで、
心の健康にもつながる作品だと思える。
個人的な好みとは違うが
★★★★☆
実は、こういう大げさな書き方はあまり好みではない。笑わせならば(怖がらせでも同じだが)、真面目な部分とおかしな部分とのギャップや、そのつなぎのタイミングで笑わせてくれる方が好きである。何でもかんでもひたすらおかしな書き方を続けられては、笑う間合いがとれないとでも言おうか。それでも結局は楽しめてしまった。
それにしても、本作を読んでいて連想したのは、nakamiya4さんも触れているように、何と言ってもミュージカル映画である。最後の大合唱なんて、まさにそうではないだろうか。もちろん『ウェスト・サイド物語』を思い浮かべてもらっては困る。『雨に唄えば』等の系列だ。
最後何となくほのぼのした感じが残るのが、いいんだかどうだか。悪魔や偽作作家がどうなったのかテキトーなのも、欠点なんだかどうだか。
ひさしさん、ありがとう
★★★★★
ああ、ひさしさんが昇天されてしまった。
闘病生活、本当にお疲れ様でした。
天国でも、ブンとフンのように破天荒に生きてください。
神様も面白がると思います。
この作品は、勉強が大嫌いで本を読むことなど有り得なかった
野生児な弟を、一気に読書好きにハメるために当時高校生のわたしが
用いた必殺仕事本でした。
弟は文字通り笑い転げながら読んでいて、見事に落城し、以降、
本を読む楽しさを求めて、自ら購読するように変貌しました。
井上さんの御陰です。
ありがとうございました。
子供の読みもの
★☆☆☆☆
面白くもおかしくもない。こんなものを読んで面白がるのはせいぜい中学一年生くらいまでであろう。
バカとナンセンスの一大金字塔
★★★★★
作者は新装版と文庫版の後書きで、自分が書いた最も馬鹿馬鹿しい小説で、その後これ以上馬鹿馬鹿しい小説を書けていないことを繰り返し反省している。その後さらに三十年余り、全ての井上作品を、ましてや全ての日本の小説を読んでいるわけでもなんでもないが、おそらく不倒記録は本人だけでなく他の誰にも破られていないだろう。ひょっとして世界でも・・・
読んでいてそう思わせるだけの「バカの極北」ともいうべきナンセンス・コメディなのだ。
ラジオミュージカル台本にもとづく、井上ひさしにとっても処女小説なのだが、全然「小説化」ということを意識していない適当きわまる書き方で、歌詞をバンバン挿入した「ミュージカル小説」(そんな言葉ないけど)になっている。その歌詞も、いわば書き殴りに近い感じ。同年の戯曲「表裏源内蛙合戦」の「バイバイ士農工商」のように、読んでいて「音で聴きたい!」と唸らされるような凄みや洗練こそ無いものの、全体としての勢いは大変なものだ。
作者は数年後の「それからのブンとフン」で深刻な後日談を加えて戯曲化しているが、政治的な反省から妙な改作に手を染める姿勢こそ反省して欲しい。「ブンとフン」の野放図なエネルギーと幸福感・高揚感は、現実の政治とまったく関わりのないナンセンスの輝きであり、だからこそ今なお広く読まれ続けているのだから。