まず,第1楽章の悠揚たる冒頭部分。
このゆったりとしたテンポの一方,峻厳な冒頭の鳴らせ方は,フルトヴェングラー盤,ミュンシュ盤,カラヤン盤,ベーム盤,全てを超越した魅力をもたらす。
かつてFM雑誌が華やかなりしころ,ある雑誌が,この冒頭部分に関して「鷲のゆったりとした飛翔を思わせるようなはじまり」と表現していた(と思う)が,その表現振りがぴったりと当てはまる,素晴らしい冒頭である。
そして,第2,第3楽章の豊かな響き。
LPOなんて,と思いながら,購入した当ディスクであったが,VPO盤よりも遙かに満ち足りた気分にさせてくれる。
ジュリーニのこの手腕には脱帽である。
さらに,第4楽章。
ここは,ブラームスが,クララ=シューマンに対する思いを存分に込めた楽章。
冒頭の分厚くも冷たい弦の響きとティンパニの打刻,そしておずおずと出てくるピッツイカートを経て,ホルンの柔らかく暖かな響き。
そしてそして,ホルンの朗々と奏でるアルプス風の旋律を受けたヴァイオリンが奏でる「クララのテーマ」(と勝手に呼んでいる。)。
この展開を,これ程に愛情を込めて演じたディスクには,私は出会ったことがない。
LPOもその実力を超越した響きを聴かせてくれる。
峻厳さと愛情と,この両者をアウフヘーベンしたところに,この演奏はある。
当ディスクを是非聴いて,ブラームスを愛する人,音楽を愛する人に,ブラームスがクララに捧げた「海の上から,山の上から,私は幾千もの挨拶をあなたに捧げます」とのメッセージを体感して頂きたい。