この作品群の魅力は途中でにじみ出し、匂い立ち、密かに浮き出てくるような「色気」の描写である。例えば「花ざかりの家」では、男は妻の貴志子が家政婦として働いている屋敷の主人と不倫しているのにうすうす気がついている。そのときの描写はこうだ。「結婚当初から、どちらかというと色気とは縁遠く、少年と軽やかさと少女の無邪気さを併せもっていたような女だったのに身体の線にえもいわれぬなめらかさが加わった。体重が落ちた様子で、にもかかわらず張りつめたような眼差しには潤いばかりが増してくる。」やがて妻は謎の自殺を遂げる。
この本にいわゆる「性描写」は全然ない。しかしこれらの作品群は見事に「官能」的である。