「シャガール」という言葉に惹かれて手に取ったが、それよりも、見送った同士、仲間、友達、人々への眼差しと思いに溢れた「送る言葉」が、何ともいえず胸を打った。たくさんたくさん言いたいことの中で、掬い上げた思い、かろうじて散りばめた言葉、その一つ一つ、一行一行が優しく平易でおさまりがいい。
　
　個人的には矢川澄子への詩が気に入っている。スヌーピーの作者に捧げられた詩もある。テロリストや死の商人まで詠み込んで、恋心や星の輝きを舌の上に載せ、繰り広げる。その枯れた味わいとユーモアが、ひたひたと心を包んでくれる。あのシャガールの絵のに描かれる、柔らかい色彩を思わせる、「言の葉」が茂っている本である。

私は、石垣りんさんのお別れ会で初めて谷川さんの詩の真髄に電撃を受けました。そして、再度8月6日についての詩（『その日』）をお聞きする機会に恵まれ、衝撃を受けてこの本を購入しました。2000年に入ってからの詩を中心に編まれたこの詩集は、瑞々しい感性が絶えることなく一つの到達点をさらに越えた事を示しています。私がこれまで伺った弔辞の中で、最も美しい『石垣さん』が収録されているのは、この詩集だけだと思います。本書には、いわゆる詩集のために読まれた詩ではなく、多くの様々な機会に読まれた詩が凝集しています。谷川さんは、これからも、大木が新たな新緑をつけるように更なる天を目指すことでしょう。詩とは何か。その存在意義に対する数少ない答えを、凝集し結晶化した驚異的な書だと思います。

どの作品を読んでもはっとさせられる谷川さんの詩の音楽的センス。
”谷川リズム”というべき独特のリズムには、やっぱりドキドキさせられます。
規則的に刻んだかと思えば、一転、ランダムにやってくるリズム。
急かしたテンポできたかと思えば、ラルゴのようにゆたっりとしたリズム、
そして、間の抜かし方。

音楽好きにはどうにもいかないぐらいに、たまらない一品。

谷川俊太郎氏の新刊を手に取ると、いつも愛おしさが伝わってきます。

それは同氏の行間からあふれる詩への愛情、あるいは装丁を手がけている菊池信義氏への無条件の信頼がもたらす表紙から伝わる心地よさであったり、はたまた編集を担当してこられた出版社の方々らとの利害を超えたつながりでもあったり・・・

詩という一見とらえどころの無い、美しく繊細でふわふわしたものを表現しつづけるには思っているより力強さも必要なようですね。そんな言の葉もこの詩集にはちりばめられているようです。
自分を　「一隅に佇むノンキな爺さん」　と称する同氏が紡ぎ出した詩は帯にも書いてあるように、出来たての詩集のページで言葉じゃないものに見つかるのを待っています。
私は　「詩は」　という作品が気に入りました。