愛とはたえざる問い
★★★★★
登場人物の時間と著者の時間が重なって流れつつ、短編同士が相互に絡み合って、主題の変奏を表していく、複雑で独特で巧妙な構成を持つ小説としても素晴らしいものであったが、小説の、文章の、物語そのものが印象深かった。
歴史の中から人知れず消えて忘れ去られた人々、記憶から何十万もの人生を消し去って無垢なる世界に生きようとした人々。
チェコからフランスに亡命せざるをえなかった小説家の背負う歴史は、それだけで私には重苦しい意味を彼に与えているように感じる。
無垢で無慈悲な天使の笑い。その天使達にレイプされる女性達が、チェコの大地だったのだろうかと想像が膨らむ。
愛について、性について、死について、孤独について、復讐について、忘却について、静かに深く考えさせられる本だった。