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不滅 (集英社文庫)

価格: ¥1,200
カテゴリ: 文庫
ブランド: 集英社
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斬新なスタイルと終末的思索とで20世紀後半を代表する傑作 ★★★★★
作者の霊感が産み出したアニェスとポール、そしてゲーテとベッティーナの時空を越えた二組の男女を中心とする人間模様や葛藤を中心に、死と不滅の概念、他者のイメージとしての個、愛と栄光、魂と身体、様々な主義・思想間の闘い等について高度な作法で自由奔放に考察したもの。作者は「私」として自在に作中に顔を出し、小説というよりは断章から成る評論集を複数の旋律が奏でると言った趣きを持つ。

ゲーテに関する記述は、ベッティーナの残した書簡集に基づき膨らませたもののようである。ナポレオンへの謁見、ベートーヴェンとの交流、死後の世界でのヘミングウェイとの会話...。彼らの肉体は滅んだが、その名声は「不滅」である。一方、アニェスは精神性と孤独の象徴、夫ポールは典型的インテリ、妹ローラは本能と俗性の象徴(当然アニェスの対立項)として創造されているようである。作者はヨーロッパの歴史認識と知的体系を背景に、登場人物を操りながら思弁を語る。特に鋭く突き刺さったのは、「あらゆる"欲望"が"権利"に変容して行く」との言葉。まさに民主主義的思想の陥穽を喝破している。天下りする"権利"...。「我思う、故に我あり」との思索を疑う姿勢も新鮮である。生物共通の感情である"苦痛"を自我の根拠としているのだ。「創造は権力以上のものであり、作品は「不滅」であるが、戦争や王侯貴族の舞踏会はそうではない」との言も旧ソ連の占領を経験した作者ならでは。

作者は通常の小説の因果律や大円団を否定する。その実作例として、作者の友人アヴェナリウスの些細な勘違いがアニェスの物語に影響を与える偶然性や途中に散りばめた挿話・考察の方に力点を置いている。その斬新なスタイルと言い、込められた終末的思索と言い、20世紀後半を代表する傑作と言って良いのではないか。
最高傑作 ★★★★★
ミラン・クンデラは、「認識こそ、小説の唯一のモラルである。」と言い切る。また、「小説とは、反抒情的な詩である。」とも。
この二つの発言が、クンデラ作品全般の特異性をそのまま表している。プロットを練っただけの小説とは、格が違う。

そんなクンデラ作品の中でも、この「不滅」は最高傑作だと思う。物語の内容は、ラブ・ストーリー。
生と死という深みから織りなされた、ラブ・ストーリー。

そして、この作品を輝かせているのは、登場人物である「アニェス」という女性の存在である。繊細でいて、高尚。
彼女は捉える「人生において耐えられないのは、存在することではなく自分の自我であることなのだ。」

醒めた哲学的な思索と、壮大に混交する舞台が、静粛なハーモニーを奏でている。

クンデラ作品の中で、最も深く響き、読後は放心状態になりました。また、小説の醍醐味というものも、存分に感じました。
三回読みました。また読みたいです! ★★★★★
筋らしい筋はないという人もいるようだが筋はある。まずは姉妹(アニエスとローラ)を中心としたストーリー。これと平行して、ゲーテとその崇拝者であったベッティーナという女の話が進行する。ナポレオン、ベートーベンなども登場し、内容もほぼ実話だが現代的なストーリーテリングによって語られる。この二つの一見無関係なストーリーは「不滅」を主題として連係している。
 日本語訳の「不滅」はピンとこないが「人が死んでもその人とは関係のないところで着実に人の記憶、歴史の中に生き続けるふるまいやその人に関係づけられた事柄」という意味だと思う。
 ゲーテの奥さんがベッティーナの態度に腹をたてて、平手打ちを食わせようとするのだがその時にベッティーナのかけていたメガネが床に落ちて割れる。このエピソードにリンクしているのはアニエスが妹のローラが泣きはらした跡を隠すためにかけていた黒のサングラスを床に落とすふるまいだ。成人女性が成人男性の膝の上に冗談半分で座るというあいまいなエロティズムも二つのストーリーに現れる。
 三つめのストーリーは、作者が一人称で語る部分でアニエスという登場人物の誕生した裏話などがアベナリウス教授との対話という形で語られる。第六章では全くちがう登場人物を出すと「予告通知」したり、小説そのものに言及するメタフィクションになっている。しかしこのメタ性には奇をてらうという(もしくは伝統的な手法に対する抵抗という)作為性は感じられない。複雑な構造をもちつつ流麗で、人生の真実のアイロニーを提示しつつも軽やかで肯定的な小説だ。
存在の~より個人的にはこちらが好きです。 ★★★★★
クンデラがどんな風な書き方をするかというのはもう大概の方は知っているでしょう。そして彼の他の作品を気に入ったという人はこの「不滅」も読まれた方がいいと思います。ため息ばかりが出ました。この本と過ごすことのできた時間を持てて幸せだと思いました。10年以上前、高校時代に読んだときは話の筋しかわかりませんでした。「不滅」というタイトルが少しロマンチックだなという印象しかありませんでした。クンデラは自らの広く深い知識をストーリーと結びつけて大きな織物をつくってしまうのです。私たちはその織物にくるまれるのもそれを丁寧に読み解いてもいいのです。読み上げたときにはしみじみとした感動と、一種の放心と読む前と違った自分がいるのです。素晴らしい本でした。
いろいろと考えさせられました。 ★★★★☆
クンデラの作品は心理的描写が鋭く、強く共感すると同時に心を深くえぐられるようで、いつも自分の心の奥底を覗く思いがします。『不滅』は、とくにそう感じさせられるものでした。

作品中、クンデラはこんなような事を言っています。
どんな話?と尋ねられても答えられないような作品こそが、映像化できない「小説の醍醐味」をもつ作品だ(要約です)と。

『不滅』はその言葉通り、映像化できない小説だと思いました。どんな話なのか、悔しいけれど説明すらできない。小説中の人物とそうでない人物が同時に存在し、関わりあっていないと思いきや、突然同じ場面に登場してしまう。ゲーテとヘミングウェイが、あの世で不滅とは何ぞやと語り合ったりする。自由気ままな筋でありながら、それでも一貫して!「不滅」の意味を考えつづけています。そして結末は、意外なものでした。あるいは、ああいう終わり方こそがふさわしいのかもしれません。

クンデラは面白いけれど、難しい。難しいけれど、ついひきこまれてしまう。完全に理解できるほどの知識は私にはありませんが、それでも「読んでよかった、面白かった」と言える作品でした。