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ショスタコーヴィチ ある生涯 [改訂新版] (叢書・20世紀の芸術と文学)

価格: ¥3,360
カテゴリ: 単行本
ブランド: アルファベータ
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現在入手出来る最も詳細な伝記 ★★★★☆
ショスタコービッチに関する最も詳細且つ信頼できる伝記であると思います。「証言」以降、非常に混乱しているこの作曲家を事実で追って、読者にその作曲家像を委ねる意図が明確です。特にオペラマクベスと第4シンフォニー以降、ソビエト当局の信頼を勝ち得る局面など、人間の弱さも合わせてスリリングと言えるほど。この作曲家に興味のある方々は勿論、近代イデオロギーに少しでも関心のある方々にもお勧めです。
20世紀のスポークスマンとしての作曲家ショスタコーヴィチ ★★★★★
近年、ショスタコーヴィチへの関心は、ますます高まって居る。東京の演奏会で、ショスタコーヴィチの作品が取り上げられる事が多い事は、時に驚きであるし、CD店でも、ショスタコーヴィチのCDが多い事は、矢張り、他の20世紀の作曲家のCDの数と比較すると、驚きである。更には、インターネットでも、ショスタコーヴィチの音楽を愛し、彼について語る人々が多い事も、驚くばかりである。それは、もちろん、ショスタコーヴィチの音楽が持つ力に因る物である。だが、同時に、ショスタコーヴィチの生き方に、多くの人々が、共感を感じて居る事も、こうしたショスタコーヴィチへの関心の高まりの理由の一つである様に思はれる。即ち、ソ連と言ふ過酷な政治体制と社会の中で、作曲家として生き、多くの優れた作品を残したこの芸術家の人生に、多くの人々が、共感と畏敬の気持ちを持って居る事が、近年のショスタコーヴィチへの関心の高まりの背景に在る様に、思はれるのである。そうした意味において、ショスタコーヴィチは、クラシック音楽における、20世紀のスポークスマンとも呼ばれるべき存在に成りつつある様である。--本書は、そのショスタコーヴィチの人生を、アメリカの音楽研究家、ローレル・ファーイが、ショスタコーヴィチの家系、出生から、晩年と死に至るまで、多くの資料と証言に基いて再現した労作である。ソ連崩壊後のロシアでは、ソ連時代に封印されて居た記録や証言が、洪水の様に溢れて居るが、それらの中には、自身や他の個人を、ソ連時代に、実際以上に反体制的であったかの様に語り、「殉教者」にしようとする、誇張的な「証言」も、少なくない様である。この本の著者ファーイは、そうしたソ連崩壊後の傾向に十分注意を払ひながら、この作曲家の人生を検証して居る。又、ショスタコーヴィチを知る人々が、様々な思ひ込みから、ショスタコーヴィチとその周辺の人々について、信じて疑はずに居る事をも鵜呑みにせず、再検証しようとして居る。一例を挙げれば、交響曲第13番の初演に際して、ムラヴィンスキーが初演者と成らなかったのは何故だったのかを検証する箇所で、著者が、関係者の証言を鵜呑みにして居ない点などに、私は、この著者(ファーイ)の冷徹な姿勢を感じるものである。巻末の膨大な参照資料は、著者の検証の深さの傍証であるが、そうした基礎資料の豊富さと、著者の客観的な検証姿勢において、この本は、信頼に値する本であると思はれる。ただし、そうしたショスタコーヴィチに関する事実の検証に労力がつぎ込まれて居る結果か、作品の分析については、千葉潤氏の「作曲家・人と作品・ショスタコーヴィチ」(音楽之友社・2005年)等の方が、内容が豊富である。又、医師である私は、この本を読んで、以前から関心を持って居たショスタコーヴィチの神経系の持病が何であったのか、そして、その病気との闘いが、彼の作品にいかなる影響を与えたかと言ふ問題が、ますます分からなく成った事を付け加えておく。(西岡昌紀・神経内科医)