照降町自身番書役日誌シリーズ第4弾
★★★★☆
このシリーズの良さは、人情の機微を巧みに描いている所。単に人の情けを前面に押し出すのではなく、心理、心の動き、感情の起伏や綾を絡めて描いている。裏店の女房が亭主の悪口を口にしても、逆に他人からそれを指摘されれば腹が立ってしまう。いくら夫婦喧嘩をしても通い合う情がある。他人の姿にわが身を省みる。
本書では、喜三次とおゆきの仲に進展らしいものが見えて、二人が夫婦になるのも時間の問題という気がする。喜三次の心が晴れた分、代わりに廻り髪結いの佐吉の蟠り、鬱屈が本書では中心に据えられている。照降町に暮らす人々の群像劇の様相を帯びてきたようだ。
本シリーズは連作小説で、時系列で物語が展開している。従って第1作「雁渡り」から順に読み進めるのがお勧め。