照降町自身番書役日誌シリーズ第2弾
★★★★☆
数ヶ月振りに読み直してみた。1冊目が主要人物の境涯を明らかにする目的を持って、著された側面もあったが、シリーズ2冊目となる本書では、一歩踏み込んで喜三次の周りで起きる事件を通して、人の心の動き、複雑な思い、或いは生きることの切なさ、哀しさ、苦しさを描いている。3冊目の「虎落笛」が喜三次から照降町の木戸に物語の中心を移していることに比べると、若干物語の幅が狭いような印象を受ける。まだ著者の肩に力が入っているように思われる。
しかし、だからと言って本書の水準が低い訳ではない。第3話の「大風のあと」で描かれた猫次屋の親子の情愛、一人として血の繋がりのない家族愛に、思わず涙がこぼれた。著者の鋭い人間観察に裏打ちされた短編集だと感じた。時代小説が好きな方には、ぜひ読んでほしいシリーズの一つに数えられる。