男女の三角関係をきっかけにして、主人公のまわりで次々と起こる不可解な現象。何の変哲もない日常の裏にある目に見えない世界を描き、人は「何のために生まれ、生きているのか」という真摯な問いかけを根底に秘めた長編小説だ。著者は、驚異的な記憶力を持つ男を主人公に、生と死の意味を模索する『僕のなかの壊れていない部分』を手がけた白石一文。本書は、恋愛小説を基調にしながら、ミステリーや哲学的な要素を織り込み、「新しい総合小説」を目指した作品である。
勤めていた出版社を辞め、妻の代わりに家事をこなしながら日々を送る主人公、昂一。ある日、妻の親友である由香里と肉体関係を持ったことから、昂一は奇妙な事態に巻き込まれていく。由香里の持つ特殊な「力」や、常識では説明できない出来事の数々。その疑問を解くため向かった土地で、昂一が探し当てたのは、由香里の不幸な生い立ちと、妻の知られざる少女時代の姿だった。
本書の核となっているのは、妻と由香里の長年に渡る愛憎入り交じった関係である。双方の家族をも含めた、切っても切れない絆を描くことで、著者は人間同士の繋がりの強さと脆さを表現してみせる。全編を通して登場人物の喜怒哀楽が細やかにつづられており、超常現象という題材を扱いながらも、決して突飛な印象はない。いくつもの謎が仕掛けられた物語に引き込まれるうちに、主人公と共に、読者自身も大きなテーマについて考えさせられるだろう。(砂塚洋美)
常識だけにとらわれずに
★★★★☆
ホラーであり、恋愛小説であり、ドロドロの昼ドラ的要素もありのいろんな顔を持つ作品だけど、大きなテーマは「生」。
常識では考えられない特殊な力を描いているので、
その時点でもうアウトだと拒絶反応を起こす人もいるだろうけど、
強く訴えてくる箇所が多々あり、魂を鷲掴みにされたようにグッと読み応えのある作品でした。
深く考えさせられます。
人の強い、強すぎる思いは常識なんて凌駕してしまうのかもしれない。
そういうことはこの世に確かに存在するのかもしれませんね。
あとがきで白石さんはこんなことを書いている。
“自分がいったい何のために生まれ、生きているのか、それを真剣に一緒に考えてくれるのが本当の小説だ” 、と。
この作品に限らず、白石さんはいつもそれを深く追求する作品を書いている。
よしもとばななさんを読んでも感じることだけど、
白石さんも描いているテーマがどれを読んでも決してぶれてない作家。
生きている意味なんて簡単に見つかるものではないけれど、
白石さんの作品に触れながら、常にその疑問は持ち続けていたいなと思います。
超能力、サイキック・・・著者の新しい世界
★★★★☆
私は著者のほとんどの作品を読んでいて、その現実社会をリアルに捉える点と「生きること」について、不器用なほど徹底的に悩むところが魅力的だと思っている。今回は、著者の「生」に対する哲学がいつものように見られて読み応えがあったが、霊能者や超能力かなり大きくでてくるところは、これまでの著者の作品にない新たな展開であり、良いとも悪いともいえないが、ストーリーにはいつものように引き込まれ、読み応えがあった。
何度も読み返したい
★★★★★
物語を通して作者の死生観が描かれ、それに共感できたことで、何か自分の人生に厚みができたような気がします。「おすすめ」を人に聞かれると必ずこの作品を挙げます。
「小説」の衣を借りた、作者からの強烈なメッセージ
★★★★★
「シチュエーションが現実離れしていて突拍子もないストーリー」と言えばそう言えなくもないが、この小説はその架空の物語を借りて「大勢の人に囲まれた中で生きる…とはどういう事か」「苦しくてもなぜ人は生き続けるべきなのか」を訥々と語った名作です。そのメッセージは今までの白石作品よりもかなり鮮明に浮き出ていおり、面白い状況設定と相まって一気に読ませます。これは若い人こそ読むべき作品。
うーん。。
★★★☆☆
文庫本の表紙が一面の向日葵で綺麗なのが目につき、また白石一文さんの作品が好きなので買いました。
・・・が、いつもの緊迫感、リアリティがあまりないように感じた。
するすると読みやすいが、その分、胸に訴えかけてくる感が弱い。
話の途中から、超自然的な内容が入ってきて、私はあまり好きではなかった。
もちろん、主人公が思い悩む部分などは、やはり白石一文さん独特の深く、暗く考え込まれた文章になっているけれど、最後の鶴が空を飛んでいく部分にしても、少し不自然な感が歪めなかった。
私は白石さんの切羽詰まったような臨場感あふれる文章、苦しい現実やそれにもがく作中人物に共感したり、同じように考えたり、悩んだりするのが好きなので、少し期待外れ・・でした。でも、白石さんの作品は読み返すたび、新しく考えさせられる部分があるので、また読みなおしたら、別の発見があるのかもしれない。