歴史は死であふれているから、生きる、愛する
★★★★★
ちょっとクレイジーなイサベル、夢と現実が入り混じるイサベル、そんな印象をもっている人も多いと思う。でもこの作品は彼女と娘のパウラの自伝=伝記で、母娘が生きた愛は、たしかに現実だった。答えなくなったパウラ、永遠のどこかに去ったパウラの不在が、それがいかに現実だったかを証言する。著者が「これまでの作品はすべてリハーサルにすぎなかった」と述べるのも、うなずける。強烈にリアルな、とりかえしのつかない喪失感。病床の娘をきっかり一年間見つめ、その死を見つめる。その一方で、自分自身の波乱万丈の半生が、きちんとふりかえられる。特に1973年、チリのクーデタをめぐる描写は圧巻だ。おりしもオムニバス映画『セプテンバー11』で、イギリスのケン・ローチが、このアジェンデ政権崩壊の「9月11日」をとりあげていた。合わせて見ると、とことん考えさせられる何かが見つかるんじゃないかな。