台湾を「肌」で知る一冊
★★★★☆
ここに収められた七つのそれぞれの物語に、熱気と喧騒とを含む台湾の空気が感じられるように思った。日本には見当たらない巨大なエネルギーが発露する光景が描かれる。同時に、そこで暮らす人々が予想以上にわたしたちに近い存在だと感じさせる、近代化された台北の街も鮮やかに浮かび上がる。離れて見ているだけではわからない、また、単にそこを訪れただけではわからない、台湾に生きる人々の「いま」が、内面が、個性の明らかな七人の語り手たちによって浮き彫りにされていると感じた。とくに、映画の脚本でも有名な朱天文の『エデンはもはや』は、吉本ばななや日本の若い作家の作品を味わいを感じさせるような、音や匂いを喚起させる新鮮な文体によって、台湾人の情念や感覚を「肌」で感じさせる作品に仕上がっている。そこでは現代生活の孤独や哀しみといった、日本のわたしたちにも通じるテーマも扱われているのだ。まさにこの一冊は、台湾文学よりも広い意味で台湾に興味を持つ人にもおすすめの「小説版台湾ガイドブック」と言えるだろう。