小さな物語たちの大きな意味
★★★★★
細部まで磨きこまれた21の短くも充実した物語。めちゃくちゃ面白く、そしてためになる。人を見る目、嘘の効用、怒りや憎しみの育て方と消し方、知識と知性の違い、そしてもちろん、とても難しいので様々な角度から描かれる、恋愛とセックスの作法。言葉の表現の多彩さに魅了され、ときにその見事さに息をのみながら、人間がわかってくる。わからなさも含めてわかってくる。
手をかえ品をかえ創作される物語の巧みさは、月並みな表現だが、職人芸、という言葉で評するのが適当だろう。落語的な軽妙な語りと気の利いたオチのつく話もあれば、人と人との関係を精密で美しい文章で書き綴っていきしっとりとした余韻を残すものもある。なかには「電信柱」目線のストーリーもあって、楽しい。次はどんなのでくるのだろう、とわくわくしながら読んでいるとページをめくる手が止まらず、ふつう短編小説集は1話ごとに完結するので「先が気になる」ということにはなりにくいのだが、次が気になって、ほぼ一挙に読み終えた。
長編『学問』もたいへん素晴らしかったが、こちらも負けず劣らずな傑作であると思う。