「ネグる力」だけではない。決断せず、仕組み作りをしない我々管理職に対する警告書。
★★★★★
氏のいつものキーワード、「デッドライン」「残業ゼロ」「ライフ・ワーク・バランス」の話。しかし、同じテーマでもはっとさせられる新しい視点や情報が織り込まれており、読んで決して損することはない。
「あるプロジェクトが実行段階を迎える前、つまり『判断』のところでデッドラインを設定することが大事だ。・・・判断を迅速に行ない、決断し、実行に時間をかけることこそ、プラグマティックな経営の必要条件なのである。」
「変化への対応をスピーディーに行なうためには、完成度が低い段階で選択肢を絞り込む判断を下し、実行に移してしまったほうがいい。そこから先は、現場で走りながら完成度を高めていけばいいのである。」
「『決断力』はどうすれば高まるかといえば、そこに時間的な制約、つまり『デッドライン』をつけるにかぎる。」
「社長であれ部長であれ課長であれ、部下を指揮する立場の人間は、朝から晩まで『判断』を繰り返すのが基本的な任務である。」
「『ホウ・レン・ソウ』とは、まだビジネスマンとして独り立ちできていない人間にとっての『OJT』なのである。」
「ビジネスマンが『仕事のできる人間』になるのに必要な閃きなど、たかが知れている。誰でも『九九パーセントの努力』の部分で挽回できるはずだ。むしろ、皆、努力の途中で諦めてしまうのが問題なだけだ。」
「判断のスピードを上げようとするならば、必ず『メールを五分以内に返信する』という努力をするのも一つの手だろう。」
「ロジカルな判断は、自分の感情や感覚に対して『それはなぜか』と問いかけるところから生まれる。」
「リーダーシップを発揮すべき地位にいる人たちが効率的な『仕組み作り』を怠っている分、個人にしわ寄せが来ているのだ。働く人々の勤勉さを『悪用』して、リーダーたちがさぼっているといってもいい。」
人生を豊かなものにするには、『ライフ・ワーク・バランス』ではなく、実は『ライフ・ワーク・スリープ・バランス』をうまく取ることが必要だ。」
著者はフランスの宅配システム、空港サービスを例にとり、「こんな業者には二度と注文をしたくないと思った。」「(ロジックで「仕方がない」と単純に割り切り、そこから先には全く進もうとしない)考え方では、今後もサービスの質的な進歩は決して望めないだろう。」と手厳しく批判している。実は、「ロジックを超えた領域でも顧客のニーズを満たそうとする日本独特の姿勢」を「欧米には決して存在し得ない強さ」と断言している。
つまるところ、本書は、「仕組み作り」を怠り、日本人の「勤勉さ」に甘えているリーダーに対する厳しい警告書である。
係長以上の役職にあるすべての人にとっての必読書である。
4章までは復習+αとして、5章は2つのキーワードで極めて有益な内容
★★★★☆
「残業ゼロ」、「デッドライン」で有名な吉越浩一郎氏の新著。
私は吉越氏の著書を複数冊所有しており、デッドライン仕事術を私なりに実践していた。ただ、デッドラインは引くもののアウトプットという結果にはなかなか実を結ばなかったことが気になっていた。
この問題点の解決策を知りたくなり、本書を購入した。
4章までは、これまでの著書でも書かれていた内容に決断の要素を+αしたものだった。
そのため、復習を兼ねて読み進めていたのだが、1つのキーワードが印象に残った。
○システムD
※D:もつれた糸を解く⇒複雑な問題も諦めず、突破口を見つけて順番に解決
私が本書で最も参考になった箇所は、最終章(=5章)である。
5章で、政治を例に著者は日本がアウトプットに無責任であり、原因としてデッドラインを決めていない点を挙げていた。そして、5章を読むうちにデッドラインを引いてもアウトプットに結びつかなかった原因が分かった。
それは、私が“1日=24時間”と考えていたことである。
この発想がデッドラインの線を異なる箇所に引き、結果としてアウトプットがイメージと一致しなかったのだと、思わず目からウロコが落ちてしまった。
著者は、5章で1つのキーワードを掲げている。
○「ワーク・ライフ・スリープ・バランス」…8時間労働、8時間オフタイム、8時間睡眠
そして、著者はワーク・ライフ・スリープ・バランスを実現するために、時間に対する考え方を次のように改める必要性を説いている。
○「1日は16時間」…8時間の睡眠を差し引き、残りの16時間をどう使うか考える
5章を読んで、私にもデッドラインとアウトプットのイメージがイコールになるという手応えをつかんだ。また、余計なストレスを抱えることなく、オンとオフを割り切って考えられるようになった。
デッドラインを決めたその先に真の難題があるはず
★★★☆☆
個人的に評価が高かった「「残業ゼロ」の仕事力」の著者の本ということで、少々期待が大きすぎたかもしれない。
デッドラインを決めて仕事をすることが大事なのはよくわかる。
仕事は決断することであり、決断することは捨てることを決めることということもわかる。
タイトルを見てなお本書を読もうとするからには、その先の何かを期待するのだが最近の情勢を盛り込んで、これまでに書いてきたことを再度表現したというところか。
本書では、デッドラインの発想とネグる=捨てる技術が大事と説き、リーダーがそれを実行していけば現在の危機を脱することができると主張する。
正しいとは思うが、書かれていることを実行しなければならない立場にいる人より、その指示に従う人の方がより多くこの本を読むのではないだろうか。
経済的に苦しい現在だからこそ、実務レベルでの「デッドライン」と「ネグる」ことの考え方や、それを貫こうとしたときに生じる軋轢といった泥臭い部分を示してほしかった。
とはいえ、このような感想を持つこと自体が著者「教えてくれるのを待っている野性味のない人材」と著者が評価するのなら仕方がないか。
正論!しかし日本の普通の会社の従業員には難しい
★★★☆☆
日本の企業の多くも、成果主義に変わってきているから、アウトプットが重要で、そこにいたるプロセスを要領よくやればいいよ、という主張はわかります。よりよいアウトプットを出すためには、睡眠が重要で、そのためには、私生活に割く時間を増やす必要があり、残業をなくしていかないといけません。というくだりも納得します。
しかし、日本の普通の企業に勤める私からすると、成果主義、っていっても、評価基準があるようでないんだから、自分に割り当てられた仕事が終わって「お先に失礼」とか、有休をきっちり消化なんてしていると、あいつには仕事が足りていない、割り当てる仕事がすくないんだ、と判断されてしまいます。結局は、評価が下がるか、割り当てられる仕事が増えていくか、ということになります。ホワイトカラーの仕事に対する評価基準を決めるところがおろそかなんですよね。そこらあたりは差し引いて考えていく必要があります。もしくは、個人プレーに対する評価基準をきっちりとだしている会社に行くか、ですけど、
それと、自殺が増えているくだりで、結局、政治が悪い、というところに落ち着いてしまっているのは、著者が批判している、今の若者の思考停止と同じじゃないか、とも。
アウトプットから考える、あらすじをたてて仕事しろ、とか、たくさん集めた情報から必要なところ以外は捨てていけ、とか、即断即決!、和魂洋才など、繰り返された正論ですが、貴重な教えもあります。一度さっと読んで、そうだ!と感じたところを取り入れる、という読み方でよいと思います。
元気がないこの国と国民へ向けたMr.デッドラインからの処方箋
★★★☆☆
全部ではないけれども、尊敬する吉越氏の主著は一応目を通している
つもりです。でも、読後、「今回は、さすがにちょっとネタもつきた」感
がありますが、でも、「憂国の志ゆえに、いてもたってもいられない緊急提言
してみました」と言ったところで、吉越流の元気メッセージは顕在です。
「経済危機」に見舞われ、元気と活力がない日本と国民(特にビジネスパーソン)
を、吉越流で分析するところから始まります。ただし、そのロジックは非常に
ドライで、欧米流です。著者によれば「世の中が変わったからだ」と
みもふたもない話ですが、しかし、現実を直視することから再生が始まる。
まあ、そうは書いてないけれども、勝者と弱者の格差拡大社会は結果的に
不可避である、という暗黙の前提での現状分析です。ドライです。
世界一勤勉な(であった)日本人が、勤勉に仕事をしても報われない経済社会
になった理由を発端に、「利益を上げることためのマシンである企業」が「労働力
をコストの調整弁とする」ことは「マネジメントの使命である」。さらに、
「世の中に対応する」ということは「状況に対応すること」「競争に勝つ」と
いうことで、勝者になるための「コンクール」に勝つとは、プロセスを評価して
もらうのではなく「アプトプット」を出して評価を勝ち取ることである、と豪語します。
それは「企業風土に依存、染まるのではなく」、どこでもプロとして通用する力量を
もち続けること、といいます。そのためのキーワードは「デッドライン」「リーダーシップ」
「プラグマティック」である、と説きます。
その後はマネジメントと仕事や組織のリーダーシップの話になっている
のですが、最後の締めは「政治や国民」が「自分のやるべきこと、約束」
にコミットメントをし、デッドラインを設けて、アウトプットを出すこと
がこの国を再生させる、というメッセージです。
いつものように、明晰な吉越流の「ロジカル」処方箋ですが、残念なのは、
環境変化を所与の外部環境要件として、それへの対応を説くというロジックは、
企業経営者としての視点であって、天下国家の目線ではないのですが、
個人個人の生き方への処方箋と捕らえれば、それもむべなるかな、というところ
でしょうか。
ところで、この元気のない状況にデッドライン仕事術をどう適用するか?
は、実は、あんまり詳しくは語られてはいません。