戦前の小津の作品では一番かも
★★★★★
戦前の作品なので、画面や音質には戦後のものとは同じとはいかないし、時間の経過とともに、体感時間が現代人と差があるせいか、やや展開が遅い気がするなど、要するに戦後の小津作品を見慣れて、この作品に接すると、違和感が生まれることはいないめない。でも、テーマは家族の中のエゴと愛情を上手に見つめる視線で、「傑作」の名に値すると思う。兄弟が多いなど今とは家族構成が異なる上流の家庭のお話なので設定が一般的ではないが普遍的なテーマを上手に描いている。「東京物語」にも顔を出すが、同じ子どもでも、それぞれ事情があって、疎遠になって冷たくなってしまう人と、やっぱり本来の親子の感情を慈しんで温かい対応を取る者と、上手に描かれていたと思う。戦前の大きな家の日常生活や物腰態度がどんなだったかも想像できる、今となっては貴重な資料。自分の祖父母が、若かったころはああだったのか、と自身の知っている祖父母の面影とこの映画の描いた時代を思い比べて、時代を推し量るのも楽しかった。それはそうと、この作品では最後に佐分利信の演ずる頼りがいのある息子が、嫁になるであろう人と母親や妹を連れて満州に戻るかのような話になって終わっているが、「現実」の世界は、その数年後にどえらいことになっているわけで、お話の中の出来事とはいえ、知らぬのは怖いというか、制作時の日本人の夢想だにしていない感覚が、悲しい気もした。作品を見るといろんなことを思えてくる。
肉親とは(‾o‾)
★★★★★
利害が絡むと殺戮にまで及ぶ肉親の修羅場が、理性と分別によってバランスされた時、
この物語の真価があるように思います。受け入れることの大切さを思い知らせれました。
小津監督さん、お見事。『出来ごごろ』も併せて推薦。父子のとっても素敵な物語です。
小津監督が描く「細雪」の世界といったところでしょうか?
★★★★☆
1941年、戦争前の作品なのに、そんな感じがまったくうかがえません。裕福な家族が、家長の死をきっかけにばらばらになっていくという作品です。
佐分利信、高峰峰子の若いのにはびっくりです。
話の筋は別としても、戦前のお金持ちの生活、 着物が主流の生活、生活の日常がわかります。
女姉妹は4人ですし、「細雪」のイメージとダブリます。ちょうど、谷崎潤一郎が「細雪」をかきだしたのもこのころですので、妙にダブって見ていました。作品がカラーだったら、よかったのにとおもいました。
結婚を迫られる男
★★★★★
笠智衆は、後期小津作品にあっては、『父ありき』以来、『お早う』や『麦秋』
といった作品を除けば『晩春』で代表されるように、一貫して、妻を亡くした
男やもめの役をやっています。
『東京物語』でもこの役柄に忠実に最後に東山千栄子と死に別れることに
なります。
一方、佐分利信は、『父ありき』、『お茶漬けの味』、『彼岸花』、『秋日和』
といった出演作品を思いだしてみれば、小津作品では、結婚して妻がいることが
はっきりとわかる存在です(ただし『父ありき』では、同窓会のシーンで間接的
にそうとわかるだけです)。
このことは、『秋日和』で例の三人組を構成する北竜二が、男やもめであること
や、中村伸朗は『東京暮色』では山田五十鈴とどうみても正式に結婚している風
ではないことから比較しても徹底しています。
この『戸田家の兄妹』の佐分利信は独身ですが、物語の最後に、妹の
高峰三枝子から結婚を迫られ、相手が唐突としか思われない現れれ方をする
あたりなど、『東京物語』の笠智衆の設定と深い関係があることがわかります。
映画の最後で、一人で海辺にでかけるあたりも徹底しています。
なお、映画の中で、佐分利信は遅刻の常習犯として描かれ、父の一周忌にも
遅れてやってくるところは、再び『秋日和』の冒頭、旧友の七回忌の場面でも
使われています。
小津映画では、戦争が終わって海外から戻ってくる人物はいますが、
佐分利信が『お茶漬けの味』とこの作品で海外に出かける準備をしている
シーンを見るのは、小津作品ではきわめて異例です。
佐分利信のことばかり触れましたが、戦前の小津映画であり、小津のスタイルを
戦前と戦後に安易に分けることが間違いであることを納得させる不思議な
作品です。