傑作、でも音声が。。。
★★★★☆
映画はみなさん評価なさっているように、小津作品の名作ですが、ノイズを今のデジタル技術でどうにかできなかったんですかね。廉価版DVDですが、音声も安いんじゃ、感動も半減してしまいます。パッケージに「聞きづらい部分」とありますが、全編聞きづらいです。購入をお考えの方はその点も考慮して。ストーリーや画面構成など、後期作品に多々繋がる部分があり、その観点からも楽しめます。
肉親とは何か
★★★★★
肉親とは...この一言につきると思います。『出来ごころ』の坂本武さんと本作の坂本さんの『鶏先生』。誠に素晴らしい。人生とは、普遍のテーマであることを深くしみじみと味わいましょう。小津監督さん、これもいいですねぇ。
男達の「仕事と家庭」、そして。。
★★★★★
1943年、太平洋戦争中の作品。「一人息子」が母と息子を描いた映画なら、この映画は父と息子を描いた話である。仕事のため全く一緒に暮らせない父子関係と対比的なタイトルも意味深長だ。東京と地方の対比、学歴信仰、親子のすれ違いと愛情、サラリーマン人生など、他の小津作品と同じエッセンスが見事に凝縮された作品世界は相変わらず見事だ。「職業人≒男」だった時代柄か、徹底して男しか出てこない珍しい映画でもある。
川のように静かにストーリーが流れる他の小津映画に比べ、時間と舞台がテンポ良く進む本作品の編集は、目まぐるしく転がっていくしかない現代職業人の生き方を表してるようだ。(節目に出てくる川釣りのシーンの象徴的なこと!)60年以上前の作品とは到底信じ難いこのリアリティから、小津の卓越した才能はもちろん、日本の産業社会化は高度成長期の遥か昔から始まっていたということも確認できよう。
脅迫観念に駆られたように父子の葛藤や家庭の崩壊を描くことが「ステレオタイプ」になったここ20年程の映像作品に比べ、仲の良い父子の愛情を素直に描いた本作品は逆に新鮮だ。(教師と生徒の触合いにも同様の新鮮さを感じる。)
ほのぼのとしたストーリーと並行して現実の重さを描ききるのが小津映画の特徴だが、本作品では比較的リアリズムとヒューマニズムのブレンド具合が後者に偏っている。このブレンド具合は、仕事に疲れた現代人にオススメの一本といえよう。しみじみ味わえますよ。
<余談>
この映画の細部を読解していくと、「仕事と家庭」に「戦争」というテーマが巧妙に重なっていることが分かる。(詳しくは1度通して見た後にネットで検索してみてください。)厳しい検閲を綿密な計算で通した構成から、小津映画の最高傑作としばしば評されるのも頷ける。
仕事人間のための家庭映画としてほのぼの楽しんだ後、反戦映画としてもう一度見ることができるという、驚愕の映画。
人生観が変わりました
★★★★★
本作は昭和17年製作、つまりは戦時中の作品でありながら、それを示唆するものは一切出てこない。軍服を着た通行人すらも。それだけでもある意味驚異の映画であると思う。それでは何故これで当時の検閲を通過したかというと、メインテーマの「父親の権威」を隠れ蓑にしているからと伝え聞いた。もう少しあとの黒澤の「一番美しく」や木下の「陸軍」などが、軍のプロパガンダに安易に迎合した(させられた?)ために、芸術としての価値をいかに貶めているかを考えると、本作の孤高の地位は際立っていて、やっぱり驚異の映画としか言いようがない。
もちろん映画としての出来も超一流。本人同士の意志に反して離れ離れになって暮らさなければならない笠智衆と佐野周二父子の愛情を極め細やかに、かつ叙情的に描いている。笠智衆は本作が初の老け役。それと当時の日本人がいかに礼儀正しいひとたちであったかが、本作を観るとよくわかります。それは検閲のせいであると反論するひともあるだろう。しかし昨今のTVや映画における不快で下品な言葉遣いにもはや吐き気が出るほどウンザリしている私にとって、本作には文化のオアシスのようなものを感じることができるなんて言ったら言い過ぎか?
戦前戦中を左翼的歴史観の影響で「暗黒の時代」と一方的に決め付けているひとたちはもちろん、すべての映画ファンは必見。小津自身はそんなことを全然意識していなかったのだろうけれど、今観ると日本及び日本人っていったい何なんだろうと、不意に考えさせられる映画です。