木暮実千代の名演、佐分利信の人情味
★★★☆☆
見合いで結婚した夫婦のすれ違いを、軽妙なタッチと
セリフで描いた、お茶漬けの味。
「お茶漬けの味」というタイトルが秀逸です。
主人公演じる佐分利信と、すれ違いの妻、木暮実千代が
お互いを理解し、本心から夫婦になる過程を、妻の友人たちと
大磯、鎌倉そして箱根を舞台に、小津安二郎節で描きます。
トリックスター(狂言回し役)に、お見合いを逃げ勝って、
形式的な見合い結婚を嫌い、自由恋愛を求める姪(津島恵子)
と、後輩の鶴田浩二を当てがって、古き良き時代の夫婦と、
自由闊達な社会の空気で育った若い二人を対比して語っていきます。
トンカツ屋で酒を呑み、向かいのパチンコ屋で遊興していると
そのパチンコ屋の主人が、戦友だった、というのはいいけれども、
主人役が笠智衆というのがしゃれている。
ラストの木暮実千代のしおらしさと、佐分利信のやさしさが
画面から伝わってくる。
カメラを移動させて撮影するシーンがいくつかあって、新鮮で驚く。
正調日本語物語(^_^)v
★★★★★
ストーリーはさておき、会話の楽しさ、茶目っ気のある姉さん達。
何とも可愛いですね。人が楽しく暮らしていくことの見本のような物語。
世知辛い今の暮らしと比べ何と楽しいのでありましょう。感心しきり
小津監督映画屈指の、心に染みる名場面・名台詞
★★★★★
1952年の作品。白黒。心に染みる名場面・名台詞が多く、小津監督の映画の中で私にとってベスト5に入る作品だ。小さな危機を迎えた夫・茂吉(佐分利信)と妻・妙子(木暮実千代)が、映画終盤でひょんなことから深夜にお茶漬けを作り、茶の間に運び、お茶漬けをすすりながら会話をし、夫婦の絆を確認する二人芝居が見事。自分の勝手な行動を謝り、夫が好む、遠慮や気兼ねのない気易さがやっとわかったと云う妻に対して、夫は「もう何も云うな。」と制し、「夫婦はお茶漬けの味なんだよ。」と夫婦の本質を語り、お前と一緒になって今日ほどうれしいことはない、と心情を吐露する名場面だ。名台詞・名場面は他にもあり、例えば見合いを封建的だと嫌がり、恋愛にあこがれる節子(津島恵子)に対し、登(鶴田浩二!)が、大きな神様の目から見ればどっちだって同じ、と語る場面。最後に妻が職業婦人の友人・アヤ(淡島千景)達との会話で、妻は夫の一部しか見ていない、夫は家では鈍感に見えるが、外では競争が大変なんだと夫達を見直す場面。妙子が節子に対して、婿選びでは、外観ではなく、男の人の頼もしさが一番大切だと説く場面。シンプルだが今にも通じる箴言が多く、現在夫婦である人、これから夫婦になる人には是非観てほしい映画だ。
華やかな女優の競演はもちろん、妻の小さな嘘を見抜きつつ、妻を大きな愛情で包む、朴訥な頼もしいサラリーマンの夫を佐分利信が好演。彼岸花と違って、節子の見合い嫌いに理解を示す役回り。小津映画の基本パターンは本作でも踏襲され、小津ワールドに心地よく浸れる。戦後の銀座、大磯駅、後楽園球場等に加えて、パチンコ、競輪等のサラリーマンの娯楽の情景が織り込まれており、興味深い。笠置衆は、茂吉の戦友・パチンコ店の主人役。戦後の復興の中でも戦争の陰は本作でも微妙に投げかけられている。茂吉のパチンコ論も面白い。