最近、昭和30年代ブームで、関連するさまざまな本が出版されている。当時の風景写真や商品写真はもちろん貴重で一読者にとってもありがたいのだが、いかんせん文章がいけない。「空気感」とでもいおうか、そういったものが全然伝わってこないのだ。本書は違う。膨大な知識と経験を有しながらそれをおくびにも出さないで、一気に読ませる力を持っている。今それだけの力を持った書き手は、残念ながら小説プロパーの人にはひとりもいない(もちろん私見です)。著者と、かつてTBSで同僚であった久世光彦だけである。両者の作品に漂う昭和の匂いはホンモノである。