たとえばシューベルトの「アヴェ・マリア」など、クラシックの多くの歌手が清冽(せいれつ)に歌おうとするところを、スラヴァは濃厚な情感をこめて歌う。カトリック教会よりは、もっと東方のロシア正教会を連想させる。それにエコーを加え、シンセサイザーのバーチャル感覚のあるアレンジと響き合うと、独特の危険な雰囲気あるサウンドが生まれるのだ。この個性には、人をやみつきにさせる、ある種の強烈さがある。
スラヴァの声は1995年以降、暗鬱(あんうつ)さを増し、癒しを求めていた日本の社会の雰囲気に見事にマッチした。スラヴァの日本デビューは、25万枚を超えるセールスを記録した代表作『アヴェ・マリア』(1995年11月)。続く『ヴォカリーズ』(96年10月)『ララバイ』(97年10月)といずれもがヒットしたが、本作は、それら3枚からのベストアルバム。CD-EXTRA仕様の映像(カッチーニ:アヴェ・マリア)も収録している。誰でも耳に覚えのあるポピュラーで親しみやすい曲ばかりがセレクトされていて、心に疲れと傷を抱えている人に、しみわたるようなスラヴァの魅力が堪能できる。プレゼントなどにはぴったりのアイテムだ。(林田直樹)