下田の女
★★★★★
色々な作品が収められておりどれも好きなのだが下田の女は習作ながら秀作だと思う。
古譚には無い気軽さはありながら深い女と言う生き物の描写がそこにはある。
代表作『古譚』『光と風と夢』を収録。
★★★★☆
目次
古譚
・狐憑
・木乃伊
・山月記
・文字禍
斗南先生
虎狩
光と風と夢
習作
・下田の女
・ある生活
・喧嘩
・蕨・竹・老人
・巡査の居る風景
・D市七月叙景(一)
歌稿 その他
・和歌でない歌
・河馬
・Miscellany
・霧・ワルツ・ぎんがみ
・Mes Virtuoses(My Virtuosi)
・朱塔
・小笠原紀行
・漢詩
・訳詩
異国風情あふれる『古譚』が物語性の面で最も面白い。
『山月記』以外は古代のスキタイ・エジプト・メソポタミアを舞台とした作品である。
四作品併せても40頁ほどの掌編集であり、すぐ読めるのに読み応え充分。
『斗南先生』は偏屈な伯父さんの話。
『虎狩』は作者の京城時代の経験を元にした作品である。
これに限らず、中島敦の小説には京城との関わりが深い作品が多い。
当時の京城の様子を窺わせる記録文学の側面もあると思う。
『光と風と夢』は、スティーヴンスンのパラオでの生活を題材とし、スティーヴンスンの手記という形を取った小説である。
当時のパラオにおける白人と現地人の有様が緻密に描写されている。中島敦はこれを南洋勤めの前に書いたらしい。
日本の範囲を超える
★★★★★
子供のころ、祖父の残した「絵葉書」があった。
そこには昭和初期の「奈良」の風景や「鎌倉」「京都」のほかに、
「朝鮮」「台湾」「南洋諸島」の絵葉書があった。
私が不在の間に捨てられたが、あれを思い出すたびに1945年までは
「南洋」も日本であったのだと感じる。
中国、朝鮮半島、台湾、南洋諸島を超えて世界を描けた「中島敦」という
作家の未来はどうであったのか。
優れた「漢学」の素養とものを視る眼、そして当時の西洋と対峙する姿勢。
昨年が生誕100年だったが、松本清張とおなじくらい長生きをしてほしかった
作家であったと思う。
彼が1945年以降も生きていれば、彼の眼はどんな世界を視たのだろうか。
早世が悔やまれる…
★★★★★
中島敦=漢語調。
このイメージが強いのは、やはり高校時代の国語の教科書で触れた「山月記」の影響だろうか。
しかし、中島敦作品は古代中国に題を求めたもの「だけ」ではない。
全集<1>に所収の「文字禍」はメソポタミアが舞台。また、芥川賞候補となった「光と風と夢」はイギリス人作家、
スティーブンソンのサモアでの生活記の体裁を採っている。スティーブンソンもまた若くしてこの世を去ったが、
中島敦はおのれの生の短いことを知りつつ、この小説を書いたのではないかと。
中島敦というこの不世出の作家の引出しの多さ、底しれぬ可能性を感じさせてくれる全集。
本当に早世が悔やまれてならない…
文庫本3冊で全作品が読めるのでぜひ買って欲しい
★★★★★
中島敦といえば中国ものが有名だが、全集を読むと実はそれ以外のもの(かつ良作)が結構あるというのが良くわかる。
・古譚
古代オリエントを題材にした短編いくつかと山月記
・光と風と夢
「宝島」のスティーブンソンの晩年を描いた長編
第十五回芥川賞候補となるも、ほとんどの芥川賞選考委員から「奇を衒う面白さはあるが、到底、芥川賞に値する作品とは思えない」と評価される。
(これは、それ以前にでていた山月記も含めての評価らしい)
審査員でただ一人川端康成だけが「芥川賞に値しないとは、私には信じられない」と述べた。
・「斗南先生」
中島敦の分身である三造が登場。その後も三造が登場する小説が書かれている。