庭先でコオロギの鳴く秋分の日に
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明治の翻訳文化の中で、訳詩集としては、代表的な詩集であり、平成の現在まで是を越えるものは存在しない。敢えて云えば、変質した日本国では、もう、このレヴェルに達する事は無理であろう。この優美な日本語の、可能性を信じることが出来る、その幸せを噛みしめている。柳村上田敏の「海潮音」は、訳詩集と言うよりも、もう、上田の創作詩集と云って好く、例えば、落葉は、最早、上田敏の作に近い。十代のときに読んでも、五十代のときに読んでも、この詩集の輝きは、手垢も付かず錆びてもいない。
文語体の深淵、口語体の明晰、青空を背景に、白く輝く、雲のような旋律が詩には流れている。この本を手に取る、悦びを伝えたいが、日本人の言葉が乱れた現在、バベルの塔の如く日本人の精神も乱れている。惜しむらくは、柳村が、40歳を幾らも出ずに没した事だ。秀でた詩人は、キーツや賢治の如く若くして死ぬか、ゲーテや春夫の如く長命を保つかの、何れかであり、中間は無い。投稿者は、柳村のイメージを、いつも、ホーフマンスタールに重ねていた。どちらも天稟の詩才を持ち、醗酵する芳醇な時間と人生の悦びを与えてくれる。
カール・ブッセの『山のあなた』を ドイツ語から英訳した
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辞書を頼りに、独語から英語に逐語訳してみた。押韻はしてない。
Over the hills
People says, "Luck lives."
I followed the charm of the others and returned with tears in theeyes.
People says,
"Further more, further more,
over the hills,
Luck lives."
今から25年ほど前の英訳である。記憶を基に記したが、多少違っているかもしれない。随分前のことだから・・・
すべて世はこともなし、かな。
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『海潮音―上田敏訳詩集』です。
国語の授業の文学史で有名ですが、実際に読む機会は少なそうです。
本は、さほど厚くありません。
翻訳者は上田敏ですが、格調高い文体は、もう上田敏のオリジナル詩集といってもよさそうな感じです。詩の翻訳って、大変なのです。
マラルメ、ヴェルレーヌ、ルコント・ド・リール、ロバート・ブラウニングなど多彩な詩人の作品を収録しています。
昔人の文章、ということで、現代人には難解な漢字熟語なども入っていますが、意味が解釈できないということはありませんし、豊富な語彙を自由自在に駆使することで独特さがでています。
ちょっと詩でも読んでみたいけど、どの詩人がいいか分からない、などという向きには、最適かもしれないです。
確かに、文学史に残って然るべき、珠玉の翻訳詩集です。
ひとりの夜に静かに酔う。
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大学時代の友人が薦めてくれた大切な詩集。
文づかひが豊かなきれいな文語体。ヨーロッパの名詩選。上田敏はこの本で偉業を成し遂げたと思ふ。
「海のあなたの」
海のあなたの 遥けき国へ
いつも夢路の波枕、
波の枕のなくなくぞ、
こがれ憧れわたるかな、
海のあなたの遥けき国へ。
―テオドル・オオバネル
「山のあなた」
山のあなたの空遠く
「幸(さいわい)」住むと人のいふ。
憶(あぁ)、われひと〆尋(と)めゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸(さいわい)」住むと人のいふ。
―カアル・ブッセ
「声曲(もののね)」
われはきく、よもすがら、わが胸の上に、君眠る時、
吾は聴く、夜の静寂(しずけき)に、滴(したたり)の落つるを将(はた)、落つるを。
常にかつ近み、かつ遠み、絶間(たえま)なく落つるをきく、
夜もすがら、君眠る時、君眠る時、われひとりして。
―ガブリエレ・ダンヌンチオ
あぁ、なんてロマンチック。好きです。素敵
眠れない夜とかに、一人で時々パラパラ読み返したりしてます。
言葉が綺麗です
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翻訳作品集、ということは原作があるということです。
ですが、この中に収められている詩は全て、新しい作品になっているような気がします。
日本人の耳に馴染みやすい5・7・5のリズムを使った翻訳は、思わず口に出して読みたくなるようなもの。
単なる”訳”ではない、言葉一つ一つへのこだわりが、どの詩も綺麗に見せてくれます。
一生に一度は読んでみてほしい一冊です。