日本語の美しさ
★★★★★
西洋の詩が音節の長短やアクセントと韻で表わす音楽性を、訳者は七五調や五七調あるいは同じ音節を繰り返すことで日本語の上で再現しています。
たとえば、Paul Verlaineの秋の歌の
Les sanglots longs
Des violons
De l'automne
を
秋の日の
ヰ゛オロンの
ためいきの
と、五五五のリズムと「の」の繰り替えしで表現しています。日本語がこれほどまでに美しい言葉だったのかと気付かされます。
どの詩も少しも翻訳臭さがなく、最初から日本語で書いたものかと思えるほどです。元の詩を凌駕しているものさえあるそうです。本当に見事な翻訳だと思います。
セピア色の知的で不思議な空間へタイムトリップ
★★★★☆
日本語がこれほど美しい言葉であったことを再確認できる作品です。時代背景も大きく影響しているのか、明治から大正の初期に活躍した上田敏の独特の感性と、当時の言葉や旧仮名使い、ゆったりとしたリズム感などから不思議な世界を楽しめます。また、中学の国語で習った詩や、CMで聞いたことのある詩などを発見することもあり、いろいろな楽しみ方ができるはずです。会社帰りの電車の中や休日の午後など、気持ちを切り替えたり落ち着かせたいときに読むと効き目抜群!
多彩な詩の、絢爛たる語彙と五七調を基調とする文語訳
★★★★★
上田敏博士の訳として良く知られているものは、カアル・ブッセの「山のあなた」や、ヴェルレーヌの「落葉」のようにロマン的・叙情的な詩である。しかし本書を読むと実に様々なタイプの詩が、上田敏博士によって翻訳されたことがわかった。例えば、フランソア・コペエの「礼拝」はサラゴサの戦いに従軍した軍曹のやりきれない思いをリアリスティックに謡ったもので男性的な詩である。エミール・ヴェルハーレンの「時鐘(とけい)」は時計を描写した事物詩とも言うべきものである。ランボーの「酔ひどれ舟」もある。
喜怒哀楽を詩作という行為によって芸術にまで昇華させた作品群が、絢爛たる語彙と五七調をベースとするリズムで見事な日本語に変換されている。日本の近代詩の原点と言えよう。