「作本家」という肩書きを名刺に添えている彼は、これまで手がけてきたさまざまな書籍でも、写真と言葉、絵と言葉と、ビジュアルに言葉を組み合わせることにより、独自の世界を展開して見せてきた。その彼がずっとあたため続けてきた企画を形にしたという本書は、「月の旅の記憶」をテーマとし、これもまた独特の雰囲気の世界を作り上げている。
街の夜景の上やギリシャの神殿の向こう、湖のおもてにぽっかりと浮かぶ月の写真が50点。淡い月光、明るい月光、不気味な月面、三日月、満月…。月のさまざまな表情を見せながら、第1夜の(天狗)から第30夜の(蜂蜜)まで、中国やアラビア半島、フランスなど世界各地の月にまつわる話を簡潔だが丁寧な言葉で記し、言葉とビジュアルの2つの異なる表現方法を見事に融合させた小宇宙をつくり出すことに成功している。
組み合わせて人工的に作られた月の世界。そこから自然の大きな力を感じられるのは、やはり作り手の編集力のなせる技なのだろう。月の写真に心乱されたり、逆に落ち着かされたり。世界各地の人々の月への思いに、共感したり、違和感を覚えたり。日ごろは記憶のかなたに沈み込んでしまっている、月の持つ幻想的な力というものを再認識させられる。(つちだみき)