論語の新しい読み方 (岩波現代文庫)
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日本人は孔子を知らなくても、「君子危うきに近寄らず」とか「三十にして立つ」など、論語の言葉のいくつかを日常的に使っている。それほど「論語が我が国の学術、思想の上に及ぼした影響は長くして且つ深い」(本書「論語を読んだ人たち」)。しかし、論語の解釈や紹介のほとんどが「経学的立場に立った読み方」をしていると言う。「経学的立場」とは、孔子を教祖、弟子たちを聖徒とし、論語をもって永遠の真理を説いた経典と見ることだが、著者は孔子を市井の教育者、弟子たちを就職を希望する学徒と捉え、論語を「歴史的に読もう」とする。
戦後の日本には、論語を「忠孝」を説く封建的道徳として排斥する風潮があった。しかし、孔子の時代の中国は都市国家の時代で、君主に対する「忠」の観念は稀薄だった。だから、「忠」は一般人同士の道義について使われることが多く、論語の中に18回登場するこの言葉が、君主との関係で語られているのは、3回にすぎない、と言う。また、論語に頻繁に出てくる「君子は何々をせず」という言葉は、君子を定義したものではなく、「何々はしたくないものだ」という願望の表現と解釈する。これが著者の言う「歴史的な読み方」である。
東西の古典に通じた東洋史学の権威が、「伝統的な注釈に縛られずに、生きた言葉や文体を吟味した」(本書解説)大胆かつ明快な新解釈によって、孔子が生き生きと現代によみがえった。(伊藤延司)