本書の章の表題や小見出しだけを見ても、いくつも示唆に富んだものがみつかる。たとえば、「人間中心のテクノロジー」、「ものには、それが収まるべき場所がある」などの章がある。また、「テクノロジーにはアフォーダンスがある」、「正確さが重要だと限らないのはなぜか」、「新しいテクノロジーは、それを使うよりもそれについて読むほうが楽しいのはなぜ?」などのわくわくするような小見出しが並ぶ。
さらに、本文中には「仕事をする人と利益を得る人が違う場合には、そのテクノロジーは最初からうまくいかない」、「大きな変化というものには、それを支える社会的基盤の大きな改変がともなわなければならない」、「メディアがメッセージの解釈の仕方を変える」など、考えさせられる指摘がつぎつぎに出てくる。原子力が安全でない理由は、原子力だからではなく、プラントが大きすぎ、扱いにくいから危険なのだ、という指摘や、航空機のコックピットの機器が大きく重たいことが、機長と副操縦士のコミュニケーションに寄与しているという説明には説得力がある。もっともっと具体例を引用したくなるほど、読みごたえがある。
原書執筆が1993年と、インターネットが現在ほど普及する前であったため、先端ネットワーク技術の例は少ない。しかしノーマン流の発想をインターネットにも適用してみると興味深い。この訳書の大きな欠点は、~なのである、~なのである、とたたみかける文体が息苦しく、読みにくいことである。もっとすっきりした訳文にしてほしかった。名著には名訳を期待してもばちは当たらないと思うのだが。(有澤 誠)