ビル・エヴァンス―ジャズ・ピアニストの肖像
価格: ¥3,150
ごく普通のアメリカ人らしい少年時代を否定することは、白人ミュージシャンならではの欲求だったのか、あるいは、それはアルコール中毒の父親(本当にそうだったかは誰も知る由もないが)から受け継いだ遺伝子に組み込まれていたのか。いずれにしろ、ビル・エヴァンスがアメリカで最も影響力のあるジャズ・ピアニストのひとりであり、同時に麻薬中毒者であったことは確かだ。彼が麻薬を常習するようになったのは、1950年代、マイルス・デイヴィス・セクステットに参加してしばらく経ったころからだ。エヴァンスはそれから20年もの間、ヘロイン、メタドン、そしてコカイン中毒の深みに溺れた。内気なミュージシャンとしては、ただ気楽にピアノの前に座っていたわけではないだろう。マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、キャノンボール・アダレイ、ポール・チェンバース、そしてフィル・ジョー・ジョーンズの「クールの化身たち」の影に隠れ、バンド仲間だけでなくファンからの厳しい嘲笑にさらされたからだ。麻薬は彼の身体と魂をゆがめてしまったが、鍵盤を走る彼の指は皮肉にも、かつてないほど崇高な音楽を奏でた。著者である伝記作家のピーター・ペッティンガー自身もプロのピアニスト、そしてエヴァンスを長く聞いてきた人であり、音楽の微妙なニュアンスを表現する達人でもある。彼はまた、これほどまでの美しさと痛みをエヴァンスの人生にもたらすことになったフォース(力)を探る上でも、鋭い感覚を示している。結果、この本は、重荷を背負って生きた男の記念碑、エヴァンスの卓絶した音楽へのオマージュとなっている。