今も愛されるドライ・マティーニなど古典的なカクテルはもちろんだが、興味深いのは、特別なイベントや人物のために創案されたオリジナル・カクテルだ。たとえば、1926年のゼネスト終結を記念した「ストライクズ・オフ」、当時の映画スターや時の人にちなんだ「メアリー・ピックフォード」、「チャーリー・リンドバーグ」…。カクテルがそのまま時代を反映しているのである。ほかには王室関連、当時の英国植民地の地名。酢と卵を混ぜた二日酔いの特効薬「プレイリー・オイスター」や禁酒法の国に適したカクテルなどしゃれた一品もある。全編を彩る20年代風の挿絵と、粋なコメントも魅力的。
改訂版には、1999年当時のヘッド・バーテンダー、ピーター・ドレーリの新作カクテルが追補されているが、ダイアナ妃をイメージした「ブラッシング・モナーク(はにかむ妃殿下)」など、このバーの伝統が今も受け継がれているのがわかる。ワインの年表などは古すぎて実用的ではないが、エレガントで刺激的だったジャズ・エイジを伝える読み物として、プロのバーテンダーだけではなく、酒と旅を愛するすべての人におすすめしたい1冊である。(青木ゆり子)