オリジナル・ソングを集めたものとしては11年ぶりとなるアニー・レノックスのアルバムは、かつてユーリズミックスで歌っていた彼女らしい、冷ややかで淡い輝きを放つ傑作だ。レノックスの圧倒的な声は相変わらずしなやかで魅力的な楽器であり、さまざまな感情、人格、音楽スタイルの間を柔軟に行き来する。音数の少ない素朴な悲歌「A Thousand Beautiful Things」から一見シンプルな「Pavement Cracks」(荘厳なバラードがユーリズミックスの最良の作品群を思わせるエレクトロ・ダンス・ビートの導入によってさま変わりしている)まで、レノックスは変幻自在な表現力を見せる。
しかし、レノックスの現実離れした声がもっともよく生かされているのは、古典的なスタイルのソウルだ。ミラクルズのアルバムに収められていてもおかしくない内省的なバラード「Hurting Time」には、モータウンへの架空の旅を試みるレノックスがいる。「Honesty」は、このスコットランドの歌姫の卓越したセンスが最大限に発揮された曲で、かつてのカーリー・サイモンと同様の洗練された趣をもっている。(Jaan Uhelszki, Amazon.com)