暖簾 [DVD]
価格: ¥4,725
山崎豊子の、演劇化され人気を得た小説を、川島雄三監督が映画化。森繁久弥が大阪の老舗昆布問屋から暖簾分けを受け、生涯を商売に捧げた男を演じている。
川島雄三監督作品には、ある人物の一生を描いた、いわゆる“一代記”的な作品が何本かあるのだが、この「暖簾」も原作こそあれ、そうしたジャンルに分類される作品だ。例えば日活時代にものにした傑作「わが町」では、ベンゲットのターヤンという豪快な男が自らの信念に基づくだけでなく、娘や孫にもそれを押しつけながらパワフルに生きていく姿を描いているのだが、同じ一代記ものでも、「暖簾」にはそのパワフルさが感じられない。「わが町」のターヤンが、フィリピンのベンゲットで道路工事に従事したという、肉体的イメージが強いのに対して、「暖簾」で森繁が演じる吾平は、昆布問屋の主人=商人とあって、いささか受動的で女性的なイメージを感じてしまうのだ。工業と商業の違いと言ってしまえばそれだけだが、川島自身が「暖簾」を「立身出世主義的なものにしたくなかった」と後年述懐していることからも、この映画の演出スタイルに監督は満足していたのか、疑問を感じる次第。(斉藤守彦)