東ちづるさんは外見や話し方が一見優等生的だし、出演したドラマもあまり見たことがないのですが、「たけしのTVタックル」に出ていたころ、率直な発言が心に残って気になる人でした。本書を読んで、タレント業以外にも着物のデザインやボランティアなど多彩な活動をしていることを知り、やはり人間的な厚みがある人なんだと納得しました。
その彼女が母親との関係を中心として内なる障害を取り除くためにカウンセリングを受け、しかもそれは出版というかたちで公表することを前提とした決断だったということに衝撃を受けました。僕はたとえ何らかの内なる障害を認識したとしても「健全さ」を追い求めるためにそこまでエネルギーを投入する気力は持てないと思います。
いずれにしても、文字での表現という限界はあるものの、密室でのカウンセラーと患者との間の対話の赤裸々な記録を通じて、この種のカウンセリングのもつ力というものが具体的に理解できる本です。
生きていくうえで何が正しくて、何をもって成長といえるのかを日々考えながら生きていくことの辛さ。
それが明確に自分の中で決められていないのにもかかわらず、委曲を避けながら他者に誤魔化した
自信を見せることで得てきた自己満足。
すべての問題は、自分の生きる価値そのものすべてを、他者からの評価に委ねていたからだ。
それを認めるのは恐いし、それをカウンセリングという行為により、本来、自分の弱さを他者に見せた
くない人間が虚構としての価値観を、まさに他者にさらけだすわけだから、受診する行為の第一歩が
どれだけ困難で苦痛な精神状態になるのか、、、だが彼女は社会とはなれた心に再び社会にコミット
するための勇気をカウンセリングすることにより、今まで避けていた自分と向き合い、そして、新たな
自分の価値観を自分のなかから見つけ出すことにより作り出す人生を歩んでいる。
僕は彼女の副題によりこの本を手にしたわけだが、「8文字」が僕を自己と向き合うことに志向させて
くれたことに感謝するとともに、あらゆるものに畏敬の念をもたせてくれた。
日々の社会生活で、自分の心の変調に気づきながらも、毎日の生活を繰り返すことを余儀なくされている
と感じている人には、リスクを伴うが一旦社会からリタイアし、この本をスタートに新たな人生観を得る
心の旅にでてほしい。