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プラトンの呪縛 (講談社学術文庫)

価格: ¥1,155
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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   私たちは、過去の哲学をいつも正確に解釈しているわけではない。自分に都合のいい哲学を引っぱり出し、その解釈に何らかの恣意を働かせるのが常だ。かつて歴史の1ページに収められていた哲学が2000年の時を超えて突如よみがえったとき、そこにはどれほどの恣意が渦巻き、人間はどんな思想的危機に瀕していたのだろうか。『プラトンの呪縛』は、イデア説に代表される超越的秩序や新しい世界の「原理」による国家論を説いたプラトンが、「戦争と革命の20世紀」にいかに巻き込まれ、どんな解釈や批判、反批判が加えられていったかをたどることで、20世紀における哲学と政治思想の交錯のドラマに光を当てたものである。わかりやすく一言でまとめると、プラトンを軸にして20世紀という時代を振り返ろうとする試みであるといえよう。

   構成は全3部。第1部は、ドイツにおけるプラトンの「政治化」の経緯、そしてプラトンがファシストとして解釈されていく思想的背景が描かれている。特に、反自由主義・民主主義のシンボルとしてナチズムに利用されるプラトン像が浮き彫りにされる。こうして全体主義へと振れるプラトン解釈に対しては、やはりその反動が起こる。第2部では、英米からその役割を担ったファイト、クロスマン、ポパーの代表的なプラトン批判論が取り上げられ、検証される。西欧には、プラトンを西欧思想の定立者であり精神的権威とする伝統が存在するが、それが容赦なしにおとしめられていく20世紀前半の険しい空気が読み取れるだろう。第3部では、世紀後半の思想界がこの論争を、そしてプラトンをどう位置づけたのかを、多元主義の観点などから論じている。

   最後に、著者はプラトンを「警告者」として現在によみがえらせようとする。そこでは、自由民主主義のなかで権利のみを求め、そこに甘んじて堕していく、私たちの危機的状況が見事にえぐり出されている。プラトンの「呪縛」が続いているかのように。(棚上 勉)