2006年に発売されたDVDの中では、幅広い層に人気のピンク・フロイドの『Pulse』がベストだと評価されているが、ラッシュの『Replay x 3』も同様に賞賛に値する秀作だ。ラッシュの長年のファンにとっては、彼らの発展の様子が楽しめる。最近になってからのファンや、他のアーティストからの転向者は、3つのライブが集まったこのセット(1980年代以降リリースされた古いVHSからまとめられたもの)をただ楽しむだけかもしれないが、カナダで大人気のこのパワフルなプログレシブ・ロック・トリオのファンは、この壮大な再録音DVDセットを存分に楽しむことができるだろう。ツアーで実際に演奏したプログラムをコンパクトにまとめたものが特にすばらしく、『Exit Stage Left』 (1981)、『Grace Under Pressure』(1984)、『A Show of Hands』(1987-88)などが収録されている。卓越したパーカッショニストであり、グループ創設来のメンバーであるニール・パートのツアー中の日記や、パートの他、ギタリストのアレックス・ライフソン、ベーシスト兼シンセサイザー・プレイヤー兼ボーカルのゲディー・リーらのユーモアあるプロフィールなどが載っている小冊子は、ツアーに関する思い出の他、このバンドの創作の過程を継続して見ることができる。ビジュアルとしても贅沢で、バンドのライヴでの様子が見られたり、アルバムのデザインや関連品も目で楽しめる。
ここに収録されているライヴは(以前にリリースされたVHSとLDバージョンとは対照的に)、以前にCDとしてリリースされた同じライブのレコーディング(曲目には何通りかある)を補うように制作された。そしてこのセットには4枚の特典CDがついているが、その中の一つ『Grace Under Pressure』は、このセットのために全く新しくリリースされたものである。これらをすべて持っていれば(相当なラッシュ・ファンのはず)、ほぼ全部をコレクションしたといえる。『Exit』(ケベックのThe Forum in Montrealで収録)と『Grace』(トロントのMaple Leaf Gardensで収録)はそれぞれ1時間になるように編集されたが、『A Show of Hands』(イギリス・バーミンガムのNational Exhibition Centreで収録)は90分の長さがある。『Pulse』ほど見た目の派手さはないが、どのライヴも見どころがある。『Exit』の『The Trees』と『Xanadu』、『Grace』から集めた『YYZ/The Temples of Syrinx/Tom Sawyer/Vital Signs』、そしてアレックス・ライフソンが光る『A Show of Hands』の『La Villa Strangiato』などだ。『A Show of Hands』には、いつも強烈な印象を与えるニール・パートのドラム・ソロがあり(『The Rhythm Method』)、オリジナルのビデオからだと映像は暗くなってしまうが(『Pulse』の中の、デーヴィッド・マレットがディレクターを務めた『Grace Under Pressure』でも同様のことがあった)、5.1チャンネルから変換されたドルビーサウンド(ライフソンとマイク・フレイザーが監修した)で、特にDTSレコーダーを使用したものは、明らかに音質が良くなった。ラッシュも人気者になったなと思っている人にとっては、『Replay x 3』は起爆剤になるだろう。真のファンは、以前にはあったアイテムがないことや、プログレッシブ・ロックの先駆者の舞台裏が見えないことを差し引いても、興奮するだろう。ここにないものは惜しまれるが、ここにあるものは最高だ。(Jeff Shannon, Amazon.com)