クリス・ボッティは、トランペットをオープンで吹こうともミュートで吹こうとも微妙な細部まで表現するアーティストのひとりで、最小限のフレーズで情感を呼び出すことができる。ときには、たったの一音――突然の高音、ハーフ・ヴァルヴによるくぐもった音、低音域のざらざらした音――で物語ることさえやってのけるのだ。本作では意識的に物静かなひとときを呼び起こし、メロディーと内省に満ちあふれた澄んだプールを生みだしている。微妙なムードへの心配りは「In the Wee Small Hours of the Morning」のソロを聴けばあきらかで、湧き上がるようなフレーズを吹くことで、ヴォーカルのスティングが作りだしたムードを輝かせている。

   本作の全編にわたってボッティをサポートしているのは、ベーシストのトニー・レヴィン、ドラマーのピーター・アースキンといった一流のミュージシャンたち。アン・ダッドリーのアレンジと指揮によるロンドン・セッションズ・オーケストラは、4曲でぜいたくな音のじゅうたんを敷いている。ボブ・ジェームスも「The Open Touch」に個性的なエレクトリック・ピアノのフレーズを提供している。またボッティは、ランディ・ニューマンの「Same Girl」を、『Playing by Heart』で敬意を表したチェット・ベイカーを彷彿（ほうふつ）とさせる親密で物悲しいトーンを加えて奏でている。（Adam Rains, Amazon.com）