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松本清張の「遺言」―『神々の乱心』を読み解く (文春新書)

価格: ¥840
カテゴリ: 新書
ブランド: 文藝春秋
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『神々の乱心』の攻略本としてお薦め ★★★★★
本書と同時に,当然の如く『神々の乱心』(上・下巻,文春文庫,2000年)も購入しました.どちらから読み始めるか迷った揚句,邪道かもしれませんが本書から精読しました.原氏の清張作品に対する思い入れは尋常ではなく,『神々の乱心』も10回以上は読み返したと吐露しています.『神々の乱心』の解説書ではないと著者は強調していますが,むしろ本書を攻略本として座右に据えると原作をより深く理解できます.原作では解りづらい事件現場や縁のある土地の地図が掲載されており,明治・大正期の女官制度の詳細,新興宗教の乱立の歴史的背景についても解説されています.

原氏の専門である現代政治思想史の観点から近代天皇制と昭和史の関係が詳述されています.各論考を通して清張流の昭和史観が紹介され,代表的な著作である『昭和史発掘』の執筆の過程で収集した資料や関係者へのインタビューから敷衍して『神々の乱心』が執筆された経緯が明らかにされます.奇しくも遺作となってしまった『神々の乱心』に託した清張の思いが並々ならぬものだったと納得させられます.「史眼炯々」という言葉に象徴されているように,歴史の闇に隠された点と線を頼りに鮮やかに小説に甦らせていった松本清張の作家としての力量に敬意が払われています.個人的に特に興味を惹かれたのは,大正期から昭和初期まで昭和天皇と貞明皇太后との間の帝位や皇室の伝統遵守を巡る確執があったという事実です.南朝正統論に基づく自称天皇の出現や多様な新興宗教の勃興,そうした新興宗教を権力簒奪の拠り所としようとした軍部の策謀,北朝派として蔑視されてきた足利一族の煩悶なども参考になりました.

最後の章に,原氏が提案する結末のシナリオが(1)-(3)まで用意されています.素直に考えれば2.26事件に呼応して宮中クーデターに発展するシナリオ(1)が正解なのでしょうが,個人的には月辰会が戦後まで存続した可能性に基づくシナリオ(3)に興味を魅かれます.清張存命ならば『神々の乱心』は2.26事件を超えて戦中・戦後まで続く壮大なドラマに発展すると想像するからです.

手元に参照できる写真資料として,逝去の2年前に貞明皇太后が孫であり青年皇太子であった現天皇に親しく接する写真があります.老いた貞明皇太后が,昭和天皇から秩父宮への権力移譲を諦め,孫の現天皇に皇室のあるべき未来を託しているようにも見てとれます.本書は現天皇と東宮家との最近の確執にも言及されており,皇太子妃の適応障害の遠因についても興味ある見解が示されています.皇室典範の原則に基づけば,次男である秋篠宮の血筋に男性皇位が継承されて行くことが有力視される中で,天皇制の今後を占う参考にもなりました.
鋭く、深遠な清張の「天皇」観― ★★★★★
本書は、日本政治思想史を専門とし

近年は鉄道に関する著作でも好評を博する著者が

松本清張の遺作『神々の乱心』を読み解く著作です。


『神々の乱心』は昭和前期を舞台に

皇室とその転覆を狙う宗教団体を描いた小説。


筆者はそのモデルになった人物・出来事や、

執筆に大きな影響を与えたを踏まえつつ

清張が、本作を通じて何を描こうとしたのか

どんな結末が用意されていたのか

そして、天皇制についてどう考えていたのかを検討します。


昭和天皇と秩父宮の関係、貞明皇后と「神ながらの道」、

南朝や熊沢天皇をめぐる騒動、大本教やその他の新興宗教、

―など話題は多岐に及びますが、

丁寧な説明が付されているので予備知識がなくても、

つかえることなく、読み通すことができました。


清張の問題意識の鋭さと、

多様な『読み』を許容する作品の懐の深さを再認識させられる本書


清張作品を愛読する方に限らず、

一人でも多くの方に読んでいただきたい著作です
御遺言 ★★★★☆
松本清張の未完の遺作「神々の乱心」はもう読まなくてもいいやというのが正直な読後感。
これだけ事実と照らし合わせて提示されてしまうと、こっちの方が面白いんじゃないかと思ってしまいました。現実は小説より奇なりですが、小説に有る醍醐味を楽しみたいと思った時には本作の方を手に取ることも今後、あるかな?ないかな?
松本清張の遺作から著者もここまで刺激を受けて調べられたことだと思いますので、そういう意味ではいつも何かをを提起させる松本清張という作家の鋭さも改めて伝わってきました。
終戦前が舞台ですので「神々」の乱心だったんですね。
私は秩父宮様の御遺言にあっさり撃沈。
1990年には完結できなかったであろう作品 ★★★★☆
私は清張の歴史観は余り好きではないのですが、この作品は見事ですね。またおそらく「神々の乱心」も見事な未完の作品なのでしょう。作品を読み解くと称しながら、著者が抱いている仮説、そのほとんどはなかなか学問的な形では、まだ発表できない段階のものなのでしょうけど、これらの仮説が清張の「作品解読」という形を取りながら見事に暗黙のうちに呈示されています。この仮説は日本の歴史の闇に埋もれているものです。清張自身もおそらく無意識のうちの「遺作」だったからこそ、このタブーとも言うべきテーマを最後に取り上げることにしたのかもしれません。そして衝撃的となるはずだった結末は清張によっては語られることなく、未完となっています。時代の流れは驚くべきもので、このタブーとも言うべき結論も、こういう形を取れば発表可能となったというわけです。著者は丁寧に、この原作の5つのキーワードを順々に解いていきます。その作業はおそらく原作を読んでいない読者にも十分理解可能なものです。著者のすばらしさは、未完に終わっている原作の最後を結末の3つのシナリオとして呈示している点です。どれも衝撃的なシナリオです。おそらく1990年のコンテクストの中では明示できなかったものと思われます。最終講の部分では、現代の皇室にはめ込まれた恐るべき矛盾が示唆されていますが、この部分はさらっと触れられているだけです。一つ難点を言うと、原作の筋の紹介が現実の紹介と時々区別がつきにくくなる部分が見受けられます。
闇に葬られ隠ぺいされた歴史をもう一度掘り返す指針になるはず。 ★★★★★
 本書は『神々の乱心』を読み解くと副題にあるように、松本清張の最後の作品となった『神々の乱心』をベースにして補足説明という形での解明になっている。解明というのも、この『神々の乱心』は結末を迎えることなく松本清張の死によって終わってしまったからであるが、松本清張の担当編集者たちも様々な観点から結末を推理している。
 しかしながら、著者はあえて自身の視点でいくつかのシナリオを構成している。
 作家の死によって結末に至らなかったものはそのままでも構わないのでは、と一般的に思われるかもしれないが、この『神々の乱心』は「昭和史発掘」シリーズの延長線上から生まれた作品だけに、なんらかのメッセージが感じられるものである。ゆえに、結末を求めるというプロセスの中から、松本清張のメッセージ、つまり遺言、予言を読み取ることができる。
 この一冊は、少なくとも『神々の乱心』と「昭和史発掘」シリーズを読み込んでからでなければ、その松本清張のメッセージは受信できない。松本清張作品の読破という労力を要するが、敗戦後の日本人には知らされていない、意図的に隠ぺいされた歴史が存在していることに気づかされると思う。
 
『神々の乱心』では、フーチという占いが登場するが、これは実際に存在する占いである。大本(教)に関係した人間も行っていたとのことだが、その他にも「お筆先」という自動書記による占いもある。
 松本清張のもう一つの力作である「昭和史発掘」シリーズに二・二六事件の青年将校を扇動したとして処刑された北一輝が登場する。彼は熱心な法華経信者であり、さらに彼の妻は神がかり的な占いをする人だった。そういった朴占というものについての背景までをも読み込んでいくと、『神々の乱心』が躍動感あふれるストーリーとして展開されるだろう。

 しかしながら、著者が本書を著した目的は松本清張作品を楽しむことよりも、多くの日本人に日本の歴史を日本人の視点から見つめ直してほしいという清張の意図を「遺言」として知ってほしかったからではないかと推察する。