大胆な試み
★★★★☆
著者の方法論上の要点は、以下のようにまとめられています。”ドストエフスキーの小説全体を、ドストエフスキーの現実の体験に即したリアリティーとして読むのか、あるいは一種の儀式、ひとつの象徴劇と捕らえるか。”(265ぺ-ジ)今回の作品は、”父親殺し”というモティーフを基本線とすることにより、この両者の目的を融合しようとした大胆な作品です。したがってこの評論では、”ドストエフスキーの伝記とその現実の深みへ”と想像力をめぐらすだけでなく、”ドストエフスキーの小説のもつ儀式性の意味や構図を、それこそ古典、神話、心理学その他すべての知識を総動員”されることになります。伝記、テクスト、講義、事件、ギャラリー、そして著者の旅行記、というさまざまな仕掛けを用いることにより読者の多面的な理解を助けようとしている点も、特筆すべきでしょう。特にこの上巻では、これまであまり取り上げられなかった後期の大作の前の作品(白夜、ネトーチェカ、ステパンチコヴォ村)の多数が、もう一度、読み直されています。またわかりにくい分離派についても、最小限の言及がなされています。