サラリとした語り口
★★★★☆
特定の選手に肩入れした感情的な文章ではなく、サラリと書いてあるので読みやすい本だと思います。試合を、選手を、ジャッジを、できるだけフェアな目線で見ようとする著者には好感が持てますが、ドラマチックな物語を期待して読むと物足りない部分もあるのでは。 終盤の、ヨナ選手と真央選手の点差の意味や、プルシェンコ選手へのジャッジの姿勢など、読み応えあります。 個人的には、浅田真央選手が五輪シーズンに「鐘」というプログラムを選んだ事、その事に対する著者の考察が興味深く、改めて浅田選手を「凄い大器だなあ…」と見直してしまいました。 来年の世界選手権は日本開催です。ぜひ会場に足を運んで選手達を応援したいという気持ちになりましたよ。
認識がないのか、やはり書けないのか
★★★☆☆
「氷上の光と影」で田村明子氏を知り、「氷上の美しき戦士たち」、本書と読んできましたが、率直に言って失望しています。ペアとアイスダンスについての記述が少ないことは別にして、筆者のフィギュアスケートに対する愛情やきめ細かな取材ぶりは伝わってきますし、それは大いに評価できると思います。ただし、近年ファンの間で取りざたされているジャッジングシステムとその運用への疑問については、「氷上の美しき戦士たち」でも本書でも全くと言っていいほど触れられていません。私はこれを大きな問題だと捉えています。なぜなら、このような状況が続くならフィギュアスケートファンをやめようとまで思っているからです。
回転不足のダウングレードとGOEによる二重減点の愚、ジャッジが出す全く信頼性のないPCSスコア、特定の選手だけが見逃される回転不足とエッジエラー、地元選手に与えられる高スコア、など枚挙にいとまがありません。特に女子シングルは目に余るものがあると個人的には思います。私が著者の本を購入したのは、このような事に関してジャーナリスト、フィギュアスケート関係者、ISUで疑問の声は上がっていないのか、現在のジャッジングシステムと運用がフィギュアスケートの未来を危うくしているという危機感はないのか知る手がかりがあるのではないか期待したからです。特に女子シングルの某選手が、ロスワールド、バンクーバーオリンピックで出したスコアについて。しかし、期待は見事に裏切られました。
ロスワールド後に書かれた「氷上の美しき戦士たち」では、某選手のスコアが突如として高騰したことについては、「今季のxxは、一段と女性らしくセクシーな演技をするようになった」の一文のみです。シーズン当初から何ら技術的にも演技的にも変わっていないにも関わらず当時の世界最高得点(これ自体に意味はありませんが)をたたき出したことの説明がこれとは。本書でも、某選手のバンクーバーオリンピックの常識を外れたスコア(と多くのファンが思っているはず)への言及は全くありません。それどころか、筆者は「スポーツそのものがつまらなくなった訳ではない。ただ採点の根拠を知りたいのなら、私たち受け取り手にも多少の勉強が求められるということだ」とさえ述べています(男子シングルに関する記述では、採点方式の改善が必要かもしれないと矛盾することが書かれていますが、これはオリンピック後に書かれた部分だからでしょう)。それなら某選手のトリノワールドのスコアや、オリンピックのエキシビションで東洋系少女の成長物語が用意され、登場した少女の胸に某選手の名前があったことをどう説明するというのでしょうか。
男子シングルに関してあれだけ突っ込んだ事が書けるのなら、女子シングルについてもジャーナリストとして何らかの疑問を感じてもおかしくないはずです。ワールドフィギュアスケートのインタビューで、「この採点方式はいいものを前向きに評価する」と公言するISUのテクニカルスペシャリストの天野真氏に質問をぶつけることもできたはずでしょう。この発言は、ISUが現状を何ら問題視していないことの証左とも受け取れます。単行本であるために書けない部分があることは理解できますが、これらなら個人が書いているブログの方がよほど説得力があると思います。某選手の得点に関して騒いでいるのは日本人だけという意見もあるようですが、それならトリノワールドでのブーイングはなかったはずですし、ファンが不信感を抱いているのは何も某選手がらみだけのことではありません。それとも私たちの認識そのものが間違っているのでしょうか。次作でトリノワールドのことに触れなければ、筆者の著書はもう購入しないつもりです。
Way back to trust
★★★★★
一番印象に残っているのは、川口悠子選手のエピソードである。
彼女は日本を離れ、ロシア人のスミノフ選手とペアを組んで、ロシア代表としてバンクーバー五輪に出場している。バンクーバー五輪の前のインタビュー時には、著者は「川口とスミノフのパートナーシップは、深い信頼関係の絆で結ばれているように見える」と“見える”という書き方をしている。
実際、バンクーバー五輪で、彼女たちの持ち技「スロウ4回転サルコウ」の大技に挑戦するか否かの判断時に、その信頼関係は崩れた。
この本の全編に共通して書かれているのは、フィギアスケートはコーチの影響力が強いということ。最終判断は選手ではなくコーチが決めることが多い。
川口選手の大技への挑戦は、コーチの指示で3回転へ。最後には味方になってくれると信じていたスミノフは裏切ったのだ。その動揺でミスを連発し、結局メダルに届かず4位。
著者は、ロシアチャンピオンという重圧が、(ロシア人である)コーチとスミノフにかかっていたから、大技を回避したと推測。しかし、川口選手は、自分がコーチを心から信頼する気持ちが足りなかったと自省している。ある意味日本人らしい弁である。心が沈み、数日間他人と会話ができなかったにもかかわらず…。
しかし、その後、驚いたことには、著者曰く「大きな収穫」を川口選手が得たこと。スミノフ選手とのパートナーシップの絆の再確認が出来たのである。その過程は詳細に描かれていないが、ここが一番気になるところである。一度失われた信頼関係をスミノフ選手はどのように回復したのだろうか?そして、川口選手はどうやって彼の「裏切り」を許すことが出来たのだろうか?
人との関係性の発展段階で、混乱段階を乗り越えた後、絆は強くなり、互いに相乗効果を生んでいくと言われる。川口・スミノフペアも、より上のパフォーマンスステージに上がっていくであろうと願いたい。次にロシアで開催予定のソチ五輪に向けて…。
最後に、この川口選手のエピソードは、著者と川口選手との信頼関係があってからこそ描かれたものである(川口選手は、自分がコーチを心から信頼できなかったことをきちんと書いて欲しいと依頼している)。信頼関係が築けた選手のことだけを書く・・・これが著者のスタンスなのではないだろうか?
公平な視点に満足。
★★★★★
前著『氷上の光と影』同様、読み応えのある一冊。本書も随所に「なるほど」と思わせてくれる情報があり、とにかく面白かった。実際に現地で取材された欧州選手権やバンクーバー五輪についてももちろん興味深い話がたくさん書かれていますが、日本フィギュア界の「強化」の歩みにまでページを割かれるのは、長年にわたってフィギュアスケートの取材を続けてきた著者ならでは。旧連盟の方々の“罪”についてはかつて日本でも多く報道されていましたが、“功”の部分にはあまりふれられていなかったように思います。
また、素晴らしいなと思うのは、著者のものの見方が公平なこと。ジャーナリストの視点で、決して大袈裟になることなく淡々と書かれている点が、五輪前後によく見られた “日本寄り”すぎる報道にちょっと疲れていた身には、とてもすんなりと受け入れられました。個人的な意見だけでなく、いろいろな方の言葉も反映させているので、より深い内容になっていると思います。
バンクーバー五輪や世界選手権では、日本の多くのファンが採点法に疑問を持ったようですが、本書を読まれると少しは理解が深まるかも。著者の言うとおり、新採点方式にはまだまだ修正されるべき課題がたくさんあるかと思いますが、ジャッジとテクニカルパネルの存在、役割分担など、評価する側の苦労もわかったうえで、自分なりに公平に評価を下すつもりで見ると、フィギュアがより楽しめるような気がします。
選手が気の毒...
★★★★☆
日本において冬季オリンピックで最も注目を集めたのがフィギュアスケート。
しかし結果もしかりその採点に疑問を持った人は多かったのではないでしょうか?
この本は、例のソルトレークスキャンダルから変更された得点システムについての解説が詳しく書かれていて非常に参考になりました。
最初の方が、日本スケート協会やISUの肩をずいぶん持っているという印象でしたが、バンクーバーの際のロビー活動や、音楽の低さ、その他様々な思惑が入り乱れた結果というのには憤りを感じました。
個人的には女子より男子の結果の方が納得いかなかったのですが、いまだに反ロシア感情が強いという事や、事前に作戦が練られていたと憶測させられる行為、愕然としました。
女子は結果よりも採点に納得いかなかったのですが、それについてあまり触れられていないのが残念でした。新しい採点システムやジャッジの方法では、元々軸がつくるのが得意な選手(浅田選手や安藤選手)に不利になってしまうとは・・・
又美しいスケーティングと言われますが、何をもって美しいとなるかがよくわかりませんでした。浅田選手に非常に厳しい採点をする日本人ジャッジの方へのインタビュー、複雑な思いで読んでいました。
でもこうやって国の思惑で採点システムが変わってそれに翻弄される選手があまりにも気の毒、これからシステムも変わっていくと思いますが、誰にでも納得できる採点で選手が晴れやかな気持ちで終われる、そういった競技になっていく事を真に臨みます。
そして選手のパーフェクトプログラムをこれからも楽しみにしていきたいです。