主人公のヴィッキー・ラインは厚みのない平面世界に住む女の子。この世界では、女性は1次元の線分であり、多角形の男性よりも、下等な存在として扱われている。
そのヴィッキーがある日、ひいひいお祖父さんの残した手記を見つけた。それによれば、A・スクエアお祖父さんは2次元の住人には想像もできない、球形をした3次元からの使者スフィアに導かれて高次元の秘密をかいま見、それを2次元世界に広めようとして異端者扱いされ、投獄されたらしい。
好奇心をそそられたヴィッキーは、次元を自在に飛び超える能力を持つ不思議な生物、スペースホッパーを呼び出すことに成功する。かくしてヴィッキーは、奇妙な数学的宇宙(マセバース)を巡ることになるのだ。
自転車乗りに遭遇し「次元」を、ビストロでワインを飲みながら「射影幾何学」を、巨大なディナー皿のような双曲の国で「ユークリッド幾何学」を…スペースホッパーの明快な解説で、次々と理解していく。
「ありえない」のに筋は通っている幾何学世界の摩訶不思議。高度な数学的・幾何学世界の魅力が楽しく語られているので、物語を読むようにのめり込むことができるだろう。
幾何学の最新知識を学ぶのと同時に、ビクトリア朝イギリスの社会構造を風刺した、社会改革者アボットのいら立ちの叫びに耳を傾けられる、知的魅力あふれる1冊である。(冴木なお)